ダロウェイ夫人 (集英社文庫)
ダロウェイ夫人 (集英社文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
物語は1923年の6月半ばのある日、ダロウェイ夫人(クラリッサ)が(パーティのための)花を買ってくるという、きわめて日常的なシーンで幕を開ける。第一次大戦の終了から5年後のことである。大戦の後遺症を直接的に背負っているのがセプティマスであるが、実はクラリッサもそのことと無関係ではいられない。なぜなら、小説は常に過去の影を背負っているからである。そのことを読者の意識に喚起させるのは、物語の開始早々に登場するピーター・ウォルシュであるが、小説の構造は一貫して時間の重層性の中にある。ビッグ・ベンの鐘の音は⇒
2023/08/27
遥かなる想い
ダロウェイ夫人を取り巻く ロンドンの上流階級の人々 の物語。 けだるい雰囲気が全編を 包み、ダロウェイ夫人の 思い出がひたすら続く。 51歳のダロウェイ夫人が 語るかつての日々は、 映画で昔よく見た イギリス社交界の空気に 似て、退廃的で日本人には 遠い世界のよう…1925年に 書かれたこの本、ウルフは 「時間」を書きたかった ようだが…正直意識の 流れるについて いけなかった、というのが 実感だった。
2015/09/20
のっち♬
保守党政治家の夫人として自宅でパーティーを開くクラリッサたちの一日。現在と過去を行き来する登場人物の意識の深層をひたすら掘り進めることで、儚く美しい小説世界を縦横無尽に構築した文学史上の重要作。男性中心主義への批判、同性愛、発作的自殺願望など著者自身の声が反映されているだけに描写は緻密だ。何より手法の出現そのものが、お互いを知り尽くせなくても求めてしまう性向への切実な叫びのようである。「瞬間」を瞬間のために楽しむことで突き詰めた結果表出する死の持つ抱擁やコミュニケーション性は彼女にとって極めて強烈だった。
2022/05/29
ケイトKATE
モダニズム文学の扉を開いたヴァージニア・ウルフの傑作。1923年6月のある水曜日の一日をクラリッサ・ダロウェイを中心に、登場人物達の心の言葉が細やかに語られている。クラリッサをはじめ、夫リチャード、元恋人のピーター、同性愛的感情を抱いていた親友のサリー、第一次世界大戦に従軍して心に傷を負ったセプティマスとその妻ルクレイツィアが語る意識は私達人間が、心の底に抱いているものであることに気付かされる。『ダロウェイ夫人』は、人間の心の言葉を紡ぎ出し、物語にした画期的な作品である。
2021/03/20
zirou1984
ひとつの時に声を封じ込めよう。か細き声も、声にならぬ声も。ひび割れてしまった繊細さの持つ美しさもそのままに。清々しい朝を迎えた6月のロンドンのある1日、その中に秘められた無数の内面のタペストリー。滑らかなシルクに触れた時の、自身のざらつきに対するおののきに少しばかり怯えながら、それでも引き込まれてしまう感覚。願う人、憂う人、妬む人、痛む人。パーティーの終わるその時まで、それぞれの内面が現れては消え、誰も知らぬところで触れては結び重なり合ってゆく。それは読書の喜びであり、言葉の喜びそのものでもあるのだろう。
2016/01/22
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