ユリシーズ 4 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ J 1-4)
ユリシーズ 4 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ J 1-4) / 感想・レビュー
ケイ
宗教への懐疑〜カトリック、ユダヤ、無宗教。父性への憧れ〜自らの投影と思われるスティーヴンを見守るブルームのような人物に、こんなふうに想って欲しかったという願望。女性の純潔や女性を理解するための定義〜肉体的不貞と精神的愛情とをブルームやモリーに定義させる。ダブリン、アイルランドへの憧憬、否定、肯定。要は、宗教・父性・女性・故郷への愛憎・葛藤を、まともに見据えて正面から対峙せず、様々な文章の形をとらせて斜めから見据えた形で表現した。世間への問題提起でなく、あくまでも自分の中の葛藤の吐露であると、私には思えた
2017/09/17
のっち♬
16章は勿体ぶった口調で回りくどい表現が特徴的。時に言い淀んだり、いい加減なことを言ったり、混乱気味になったりと語りに人間味を感じさせる。17章は教義問答形式で格調高く、ブルームの葛藤の表現にマッチしているが、過度な理屈っぽさに滑稽味がある。18章は入眠前の妻の独白で、「彼」や「yes」など単語の表すニュアンスを行単位で変化させ、取り止めのない思考を辿る。単語一つにも次第に多義的な意味合いが出てきて、不思議な感慨と酩酊を覚えた。読むことの可能性を追求し、言語感覚の幅広さと鋭敏さが発揮された野心溢れる傑作。
2021/01/11
zirou1984
世紀の言語遊戯物語、遂に完結。小説が語りうるもの全てを詰め込もうとした本作を読みながら、自分は語り得るものについて考え抜き、晩年は言語ゲームに取り組んだウィトゲンシュタインの事を何度も思いだしていた。そういえばナポコフやボルヘスだって、語感や響きを楽しんだ言葉遊びの達人だ。そう、私達の言葉は時に、意味の重さに押しつぶされ、疲れきってしまっている。翻訳の向こう側に存在する言語感覚の快楽、それはブルームさんの残念な性癖以上にユーモアで満ちていた。難解さの彼岸で見えた楽しむことの喜び、それを何より大事にしたい。
2013/07/30
みつ
ここ1週間余り、他の本に寄り道することなく、『ユリシーズ』に集中しての再読完了。4冊目は馭者溜りでのスティーヴンとブルームの対話が続く第16挿話から。日付を跨ぎ6月17日の深夜に入る。続く第17挿話は、煩瑣極まりない問いと答えが延々続くもの。終わり方が意表をつく。最後の第18挿話は、ペネロペイアに擬えられたブルームの妻モリーの内的独白が句読点なし、行替えも100ページを超える中で7回あるだけで語られる作品中最大の難所。「彼」が誰を指すかを訳注を読みながら懸命に追うことに。河出書房の全集で数十年前読んだ➡️
2024/06/25
chanvesa
ブルームとモリーはルーディを失った時からすれ違い、そしてボイランの侵入を契機にし、失った存在の代償としての役割を期待したスティーヴンという触媒によって和解の方向性を見いだした。しかしスティーヴンはブルームらとは親和せず、すれ違っていった。また和解は、確信ではないのだろう。それ故にyesは何度も念を押すように、自らに言い聞かせるように繰り返される。絶望の20世紀の入口に、アーレントの指摘のように反ユダヤ主義ののろしは上げられ、雲行きが怪しくなる中、安易な希望とは別の次元での独白であり、慰めのようでもある。
2018/04/30
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