失われた時を求めて 11 第六篇 逃げ去る女 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ P 1-11)
失われた時を求めて 11 第六篇 逃げ去る女 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ P 1-11) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
この巻では、とうとう「私」はアルベルチーヌを失う。小説全体の構想としては、このあたりでアルベルチーヌの問題に決着をつける必要があったのかもしれない。それにしても550ページに及ぶこの第11巻でも終盤のヴェネツィアからタンソンヴィルを除いて、一貫してアルベルチーヌが執拗に回想されている。時間もまた直線的ではなく、例えば何度もバイカウツギの場面が思い起こされたりもする。思えば、アルベリチーヌとのことは、最初から過去と現在ばかりで未来はなかったのである。第7巻で既に「もうこの世にいない」と語られていたのだから。
2013/12/23
ケイ
アルベルチーヌは呼び戻してもらうために出奔したのだろう。しかし彼女を死が襲う。彼女の過去を知ろうとする行為はやはり愛と思う。語り手は色々な理由をつけて愛から逃げ出そうとし、わざと目をそらそうとするが、単に向き合う怖さや勇気のなさだ。オデットの再婚やジルベルトの結婚、ヴィルパリジ夫人とノルポワ氏の関係、また登場人物達が年頃になることによって行われるいくつかの結婚から思うのは、フランス社交界において結婚と愛は切り離すことができるということだ。結婚は恋愛の障害にはならない。身分が結婚の障害になり得ても。
2015/12/05
s-kozy
語り手からアルベルチーヌは去って行ってしまった。そうなってから語り手は彼女の過去を知ろうとする。これは愛していればこそ?素直ではない語り手の行動原理は彼を思索の渦に引き込んでいく。人生は残酷なもので時は愛の忘却ももたらすのであった。
2018/12/19
夜間飛行
アルベルチーヌの出奔が二人の間の嘘を暴き出し、思い出はばらばらの破片になって散らばっている。嵐のような苦悩の中で、語り手は人間は自分から脱出できず、自分の内部でしか他人を知る事ができないのだと悟る。そしてついにアルベルチーヌは謎を残したまま世を去り、語り手は無数の思い出の中で「だがその時いた彼女はもういない」と死を追認しつつも、彼女の本当の姿を追い続けるのだ。過去にしか問えないこの問は、彼女の同性愛が決定づけられても終らない。自我の底へ降りていく旅…まるでコンブレーの夜の闇が世界を覆い尽くしたかのようだ。
2016/01/31
syaori
おやすみのキス、ピアノラ、今や生活から欠かすことのできないアルベルチーヌ。彼女を失うことが決定的になり彼女のいた〈習慣〉の力に苦しむ「私」ですが、その彼を助けるのもまた習慣の力。祖母を忘れたように、ジルベルトのために苦しまなくなったように、習慣と忘却の過程がアルベルチーヌについて、嫉妬と苦悩に満ちた恋の結末にふさわしく大がかりに描かれる様子には圧倒されます。彼女の真実を知ろうとする努力の疲労感を残して忘却の、時の中に沈むアルベルチーヌ。念願のヴェネツィア行き、サン=ルーとジルベルトの結婚が語られて次巻へ。
2017/08/28
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