失われた時を求めて 13 第七篇 見出された時 2 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ P 1-13)
失われた時を求めて 13 第七篇 見出された時 2 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ P 1-13) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
この小説が必ずしも第1巻の「スワン家の方へ」から順を追って書かれたとは限らないのだが、長大なこの作品の、しかも最終巻も終り近くになって、我々は作家が、まさに「今」書き始めようと決意する場にさしかかる。いずれにしても、この小説が書き始められたのは、多くの事柄が終って、「時」を経てからである。そうすれば、我々は、作家としての出発の「時」と、物語の終焉の「時」とにここで同時に立ち会うことになる。すなわち、この時初めて我々は、自分自身がこの小説の円環構造の渦のただ中にいたことをあらためて知ることになる。
2013/12/26
ケイ
語り手はゲルマント家とスワン家の間に暮らしていた。そこから始まった物語で、そのあたりを巡っている。ママンのおやすみのキスを待ちわびてさみしい夜を過ごした男の子は、大人になっても内気で言葉に出すよりも思索し、思春期の少年のように常に思い悩む。想いをストレートにぶつけられないが故に、想像だけが先走り、勝手な想像で幸せを感じ、また苦しむ。内気な男性は、それゆえに、記憶がもたらすものに誰よりも敏感なのだ。人生の黄昏にさしかかったと感じた男は、記憶と時を巡る物語を書けるだけ書こうと、自らに課す決心をする。
2015/12/08
夜間飛行
語り手は数十年ぶりに会った人々の変貌に驚く。このゲルマント邸のパーティは、時が人間の上に刻む変化の大きさを言葉を尽して描き、この大長編の締め括りにふさわしい壮観さを見せている。若く美しかった人の消滅と老いた醜い人の出現…それは奇跡のように溶けあい、この物語を一つの明るい絵巻としてを構成し直すかのようだった。語り手はふらつくゲルマント公爵を見て、長い竹馬の上からいつか落ちる人間を思い浮かべる。限られた生の中で時が一人一人に刻む残酷な痕を、たとえどんなに怪物めこうとも小説に書こうと決意して、物語は幕を閉じる。
2016/02/10
syaori
言葉もありません。物語の大きな円環が、物語のすべての道の合一点である美しいサン=ルー嬢の存在によって閉じられ、「私」はこれから入っていく夜を思います、物語を紡ぐ孤独な夜を。その苦悩の夜を思う時に聞く鈴の音、昔コンブレーで母のお休みのキスのために苦しんだ夜にスワンが帰ってゆく印の鈴の音、コンブレーから遠く、時の破壊作用を実感させるゲルマント邸で響くその音が少年時代の夜から現在までの出来事を煌かせ、それらをあの「幸福感」で包む瞬間、泣きたいほど美しいその瞬間に立ち会うために、ここまで来たのだといつも思います。
2017/08/30
s-kozy
ついに読了。終盤になって明らかになる「時」の意味、この小説の構造。「こうなっていたのか」と深く感動しました。4年以上かかりましたが、読了しての満足感は予想以上に大きい、さて次はいつ読みましょうかね?
2019/12/24
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