土に贖う
土に贖う / 感想・レビュー
青乃108号
河崎秋子の短編集は初読。北海道を舞台に、養蚕、ミンク飼育、ハッカ栽培、馬の蹄鉄屋、アホウドリ狩り、レンガ製造。それぞれに従事した者達を描いた6編。時代はいずれも明治から始まる。どの短編も甲乙付けがたくのめり込まされる。そして最後の7編目は6編目のレンガ製造に従事した男の、子供の物語。レンガ製造は辛い、お前は勉強して下らない事で怪我をさせらずに済む綺麗な仕事につけ、と6編目の子は銀行員を経て陶芸家となる。時代は現代。ラストは全ての短編を集約し、人々が生きて来た土地という存在に思いを馳せるもの。良い本だった。
2024/08/15
しんたろー
『颶風(ぐふう)の王』以来の河﨑さん。北海道を舞台に様々な産業の隆盛と没落の推移と関わった人々の物語が7つ…養蚕の『蛹の家』、ミンク毛皮の『頸、冷える』、ハッカ農家の『翠に蔓延る』、羽毛の『南北海鳥異聞』、馬蹄鉄屋の『うまねむる』、レンガに纏わる父子二代の『土に贖う』~『温む骨』…知らなかった事ばかりで興味深く、歴史的ドキュメンタリーを読んでいるような気分にもなった。淡々と醒めた描写だが、不思議と熱を感じる人の描き方が効いている。消えた産業と従事した人を追悼しつつ、人生の意義を考え、余韻も残る作品だった。
2020/01/14
いつでも母さん
河﨑さん初読み。短編7作、そのどれもがその頃の空気や匂いを纏い私を過去へと誘った。土の重さ、汗の臭い、立ち枯れた季節、頬伝う涙・・かつて北海道に栄えた産業や支えた人々の栄枯盛衰。静かだが腰の据わった息遣いが聴こえるような読後感。幼い頃近所に蹄鉄屋さんがあった。熱い鉄を打つ音や馬の蹄の焼ける臭いを懐かしく思い出す。タイトル作からの『温む骨』で結ぶのが良かった。
2020/02/19
おしゃべりメガネ
北海道出身・在住の河崎さんの作品はやはり、北海道民でしか出せない独特な味わいが感じられます。本作は札幌や江別、北見や根室らを舞台にした7編からなる短編集で、明治から現代までを綴ります。限られたページ数の中でも、河崎さんらしい北海道の雄大な雰囲気を綴る描写は素晴らしく、どの話も見事に魅了されました。個人的には北見の薄荷の話と根室や別海でのミンクの話がココロにしみてきました。江別でのレンガの話は改めて江別の街を訪れたくなりますね。悲しく、儚いながらもどこか温かみのある河崎さんの作品がこれからも楽しみです。
2019/10/05
昼寝猫
北海道で明治大正昭和の時代に隆盛を誇りながら、今では廃れてしまった産業群。蚕、ミンク、ハッカ、羽毛、蹄鉄、レンガ。それらを生業として生きてきた人たちの思いが詰まった作品集。派手なドラマがあるわけではない。結末さえも重要視してはいないように見える。しかし圧倒的な筆力に引き込まれる。そこには成功には縁のない、決して幸せとは言えない人たちの辛く苦しい営みの断面がある。短い物語の一編一編が1冊の本になるぐらい密度が濃かった。最後の物語だけは時代が現代になるが、作品全体を象徴し引き締めているように感じた。
2024/11/09
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