商人
商人 / 感想・レビュー
のっち♬
「商人はなぜ、何のために商売をするのか—答えはお前が見つけることだな」身内に盗まれ、使用人に裏切られ、お屋敷に強請られ、お台所の役人衆にせびられて身代が痩せ細った伊勢屋にんべんの地道な再生物語。大店の意地を捨て、商いの真髄を極めていく主人公。継いだ名に追い詰められる兄、しっかり者の女性陣、狡猾な叔父らが淡々とした物語に彩りを添え、当時の風俗や風習、鰹節の産地、製法、流通なども入念に描かれている。「商いは、人の喜ぶ顔を見るためにするものである」「店の格とは、虚心坦懐に客の笑顔を喜ぶ気持ちの深さのことである」
2019/04/20
藤枝梅安
鰹節の「にんべん」の三代目・伊兵衛が三代目を襲名するまでの足取りを描いた1冊。こなれた文体で当時の武家と商人の関係や、商人同士の腹の探り合いなどが押しつけがましくなく、すっと頭に入ってくる。放蕩に走った若者時代から、新しい商いの仕方に取り組み、妻をめとり、子をなしてのち、商人としての手ごたえをつかむところまでのストーリー。筆者の主観を抑え、登場人物に語らせているが、最終章、「商いは、人の喜ぶ顔を見るためにするものである。」(p.315)で迸るような熱い思いが伝わってくる。多くに人に読んでもらいたい1冊。
2011/01/16
糜竺(びじく)
かなりの名作です。読んでて何度もホロッとさせられました。歴史物で、しかも江戸の商人が主人公の小説を初めて読みましたが、武士が主人公の作品とはまた違う味わいで、非常に面白く読めました。僕が思ったのは、結局、武士は現代でいう公務員みたいなもので、なんだかんだ食べていけるけど、商人は世間での信用が無くなったり知恵を常に働かせていかないと、店が潰れて食べていけなくなる(現代でいう民間企業)。その点はかなりリアルでした。色々な苦労の人間模様が見れましたが、最後は読後感は爽やかで、読んで本当に良かったです!
2013/05/12
里季
みをつくし料理帖を読んでいて、この本を思い出した。あの、有名な鰹節のにんべんの三代目の店主の苦労と成功への道を描いている。鰹節はいきものだ。よい出汁をひくには特上の鰹節が不可欠。主人公が幾多の苦難にも負けずに商人の道をひた走る、自分のために、店のために、家族のために。そういう私も享保年間から続く味噌麹を商う近江商人の家の孫である。ご先祖様にもさまざまな苦労があったに違いないと、思いを馳せた一冊であった。
明野 立佳
にんべんの鰹節伊勢屋、初代から3代目の話ということで。商人と商売と人の道という。面白かったです。自分が時代物が好きで、商人の話も好きなのだと再認識。高田郁さんの「銀二貫」を読んだときのような気持ちに。
2011/11/06
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