原稿零枚日記
原稿零枚日記 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
川上弘美さんの『東京日記』が、「少なくとも5分の4くらいは本当」なのに対して、小川洋子さんの方はというと、「5ぶんの1」くらいの事実が限りなく逸脱してゆくというスタイルである。しかも、前者は簡潔で俳諧風な趣きだが、こちらは幻想文学の一歩手前に踏みとどまることで、かろうじて日記となっているのである。まことに、この作家らしいスタイルだ。ただ、「母のよそ行きの靴を買う」が、はからずも語っているように、その背後には「消毒液のにおいが染み込んだ靴」という辛く、できることなら直視したくない現実がそこに横たわっている。
2013/01/06
hiro
図書館で『原稿零枚日記』という題名に引かれて、小川さんの作品は『博士の愛した数式』しか読んだことがなかったので借りてみることにした。最初は作家の一人称で書かれていたのでエッセイと思ったが、苔料理が出てきて日記の形式をとった小説だと気づいた。蓑虫の寝汗という名の紅茶がでてきたり、主人公は運動会荒らしで、小説を書くより、あらすじを書くほうがうまいあらすじ係というこの不思議な世界が、小川洋子ワールドというのだろうか。この小川洋子ワールドをもう少し知りたくなったので、小川洋子ワールドの別の作品も読もうと思う。
2012/05/26
とら
苔料理、阪神負ける、祖母と右肘の二人、運動会巡り、盗作、靴、ドウケツエビの宇宙、あらすじ係、スカンクのピンバッジ、カワウソの肉球、健康スパランド、八歳の時死んだ私、盆栽フェスティバル、U文学新人賞のパーティ、子泣き相撲、三島由紀夫の『金閣寺』、暗唱クラブ創設者G先生を偲ぶ会、現代アートの祭典、母の爪、図鑑を書き写す.....日記風に書かれた連作短編。上の羅列だけで興味をそそられると思う。文章は相変わらず綺麗で、話も美しいのだけれど、でもどこか怖い。いや怖いというより不思議...違うな、表現出来ない世界観。
2013/01/13
風眠
あらすじを考えるのが得意な作家の日記、という形式の小説。どこからが妄想で、どこまでが現実? という不思議な感覚に翻弄される本だった。読み終わった後、毒を盛られてしまったような、読んではいけないものを読んでしまったかも・・・という、なんとも形容しがたい感覚になった。夢を見ていて、ぼんやりと目覚めているのだけれど、半分はまだ眠っているような、戻りたいような戻りたくないような、そんな感じ。うまく言えない。小川洋子はつくづく怖ろしい作家だ。もちろんいい意味で。
2014/06/09
kishikan
これはですねェ、はまっちゃいますよね。まず、どこまで技巧にこだわったのかは分かりませんが、日記風に一日の記録を綴りつつ、でもちゃんとページの下にタイトルが・・。それも句点で終わったり読点で終わるものなど様々でさらには巻末にCONTENTS!過度に飾らず、淡々としてでも美しい小川さんの文章が際立っています。非現実的な世界とは思いつつ、でも深層心理の中で、もしかすると主人公と同じ思いを持っている別の自分を発見して、思わず怖くなってしまいました。それにしてもそれぞれの日記の後にある(原稿〇〇枚)という意味は?
2011/10/21
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