葉桜
葉桜 / 感想・レビュー
kishikan
「実ってなくても、恋は恋でしょう。」忘れかけた青春の1ページ。何気ない日常の中で、でも熱くて熱くてたまらない日があったことをきっと誰もが思い出すでしょう。季節感といい、情景といい、華やかさはないけど静かで美しさに満ちた文章がこの本には満ちている。それに書道という珍しいモチーフを用いてるから、言葉のひとつひとつの意味が心に沁みてくる。高校生佳奈の既婚者への恋心は、例え実ったとしても綺麗な形では終わらないと本人も分かっているはず。だからこそ、思いを伝え合う和歌のやりとりのシーンが切なく愛おしい。これは名作!
2012/04/29
そのぼん
青春だなぁ…。女の子の淡い初恋を描いた物語でした。 途中、少しドキッとする部分もありましたが、大部分は淡々と、優しくストーリーが進んでいったので、安心して読めました。
2012/06/20
おかむー
これまで読んできた本のなかでも特筆すべきじわじわと心に食い込んでくる何か、常に薄絹を挟んだような柔らかい描写に潜在する悲しみと激しさは鮮烈な読後感が長く後に残る。『たいへんよくできました』。妻のある書道教室の先生に思いを寄せる主人公・佳奈、十七歳で死ぬ宿命と言われる神童の妹・紗英。物腰柔らかい先生の秘めた闇と妻との柔らかい関係、宿命に惑う妹へのコンプレックスと愛情、佳奈の打ち込む『書』を介した物語は全体に漂う静けさのぶん、やるさなさやせつなさが深々と染み渡る。墨をすることで書に集中する描写が秀逸。
2014/10/18
ひめありす@灯れ松明の火
何年たったら、この恋を痛みや切なさを伴わず穏やかな気持ちで思い出すことが出来るのだろう。何年たったら、この夏の激しく一途な出来事を、なされなかった想いの果てを笑って思い返すことが出来るのだろう。決して届かぬ人に恋をした。ブラウスについた墨のように淡く小さく、けれど決して消えなかったその想い。秘めては満つる恋心を、筆に乗せて。古の恋の歌を、ぶつけるように書き散らしたその夏の終わり。愛しい愛しいと告げる歌と、やんわり拒絶する歌と。そのやり取りが、先生が最後に教えてくれたこと。葉桜の様な、相容れぬ恋でした。
2011/12/10
七色一味
読破。「書」という「静」かつ「動」の世界を背景とした、大人の男性に憧れる一人の少女の姿を、静かな抑えた筆致で著した純文学。半紙に書かれた和歌による相聞と返歌は平安時代貴族を彷彿とさせる。妹の今後に含みをもたせた終わり方なども純文学を意識した部分があるのか。作者が第4回電撃ゲーム小説大賞受賞者──所謂ラノベ系出身であるとは、この作品からはうかがい知ることもできない。
2011/10/22
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