パトロネ
パトロネ / 感想・レビュー
ヴェネツィア
2つの中編小説を収録。表題作「パトロネ」の姉妹による微妙な確執は小川洋子の「妊娠カレンダー」を連想させるが、あれほどに強烈なものではない。むしろ小説の特質は最後に遭遇する小学生の女の子の得体の知れなさにこそあるのだろう。そうした日常を踏み越えた不気味さは芥川賞候補になった「いけにえ」にも遺憾無く発揮されている。「パトロネ」のそれが通常には実態的だったのに対して、こちらは純然たる想像力によるものだ。最初の出会い方もうまいが、何より物語終盤の捕獲以降のリアリティの与え方が見事だ。ただ再度の変容は不要だったか。
2014/11/24
藤月はな(灯れ松明の火)
日常に非日常がカフェオレのように溶け合う短篇集。最初、「パトロネ」というタイトルがパトロンの女性名称だと誤解していた私でした。この本を読んでなぜ、映画『ダゲレオタイプの女』のコメントで藤野可織さんがその名を連ねているのか、やっと分かりました。主人公を常に無視し続ける妹は本当にいるの?誰がいてもいなくても皆、おんなじだから問題ないという薄ら寒さは誰しも感じる焦燥の元だと思う。芥川賞候補となった「いけにえ」は美術館の監視員が絵画から出た悪魔退治というファンタジックさに却ってついて行けませんでした。
2016/11/22
なゆ
表題作『パトロネ』は、同じ大学に通う事になった妹とワンルームマンションで同居するところから始まる、妙な日常。やけに仲の悪い姉妹で、そのわりに同じ写真部に入ったり、読むごとにじわじわと違和感が広がってくる。だんだんと疑念がわいて、一気に読まずにいられない不気味な面白さ。この表紙、怖すぎ~。『いけにえ』は、美術館ボランティアをはじめた主婦久子の秘かな目的が面白い。それ以外の細かなエピソード、食卓の花、娘たちとのやりとりなんかも、どこか可笑しい。久子さんがなかなかいい味わいなのです。
2012/10/07
安南
頁を繰るたび不穏な空気は濃度を増して…。読んでいるこちらも身体中を掻き毟りたくなる皮膚疾患のリアルな描写。パトロネの冷んやりとした、または生暖かい感触。触覚に訴える恐怖。『いけにえ』市営美術館のボランティア主婦と悪魔⁈との「トム&ジェリー」こちらも日常生活のリアルな描写に当然のように非日常が共存している。フリーザーバッグをたたみながら学芸員とルノアールについての問答など笑えた。これは架空の女流画家をめぐる作家論でもあり、その作家論自体がまた怖い。ラストの「大丈夫痛くないよ、痛くない」には凍りついた。
2013/07/28
らむり
芥川賞作家ということで、図書館借り。ちょっと変わった世界?でした。『爪と目』が楽しみになる一冊です。
2013/08/11
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