地図と拳
地図と拳 / 感想・レビュー
W-G
「知略と殺戮」とか帯に書いてあったし、もっとバイオレンスな作品を想像していた。実際はベクトルが異なり、長大な年月を、様々な人物の視点で通過しながら、構成に頼らず、人物の描写や、示唆や暗喩に富んだ会話で引っ張る、まさに"小説"といった群像劇。一歩間違えば、歴史を駆け足でなぞっただけになりかねない、扱いの難しいカテゴリーに属するものに、著者の熱量と膨大な資料で幅と厚みを出した。読むほど味が出るスルメ本の香りはするけれど、今の基準で照らすと、そこまで凄惨さや毒気はなく、人によっては刺激不足で平坦に感じるかも。
2023/02/06
ヴェネツィア
これまでに読んだ小川哲の作品の中では、圧倒的にNo.1である。ただ、登場人物も多い上にやや地味であり、展開もけっして速くないので(それでこんな大部のページ数になった)読んだ人の全てがこの意見に首肯するとは思わないが。物語は1899年の夏にはじまって1945年の夏に一応の幕を閉じる(+1955年、春の終章があるが)。舞台は満州である。この間、小説世界を支配するのは戦争の論理、軍隊の論理、そして部隊の論理である。登場人物たちはフィクションではあっても、そこにあり得たかもしれない者たちである。そして、⇒
2024/10/25
starbro
第168回直木賞候補作、4作目(4/5)、直木賞発表前に何とか読めました。小川 哲、3作目です。満州国の歴史小説と言うと故船戸与一の大作『満州国演義』を思いだしますが、それとは全く異なりました。歴史小説という雰囲気ではなく、軍事構造学&都市工学空想小説という不思議な作品でした。私は未読の時点で周囲の評判から本命に推しましたが、マニアックな作品なので、本命は、『汝、星のごとく』に変更します。 https://www.bungei.shueisha.co.jp/shinkan/chizutokobushi/
2023/01/18
パトラッシュ
狭い4つの島で閉塞して暮らすより、満洲という巨大な白地図に意のままに絵を描く。そんな夢とロマンに憧れて大陸へ渡った多くの日本人が出会いと別れを繰り返し、各章で物語と対峙することで重層的な群像小説として展開する。そこに出てくるのは男ばかりであり、誰もが手段を選ばず絶世の美女である満洲を手に入れようとする。いわば魔性の女に惚れ込んだ男が暴力的に奪い取ろうとした挙句、手ひどく振られるまでを描く恋愛小説とも読める。女に溺れる男はバカなのは永遠の真理だが、大日本帝国を滅ぼした文字通り傾国の美女だったのは間違いない。
2023/03/16
Kanonlicht
日露戦争前から第二次大戦後にかけての半世紀、満州のある都市を舞台に、さまざまな人生が交錯する。登場人物たちは、非凡な才能を持ちつつも、歴史の中では表舞台に立つことがなかった名もなき一市民。あえてそれぞれの人生を描ききらないところに、あくまでも人物は歴史や国家、都市にとって一つの構成要素にすぎないという著者の考えがみえる。戦争という大きなうねりの中では、実際にこうした数々の濃密な人間ドラマが存在していたのだということに気付かせてくれる。
2023/02/04
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