ためらい
ためらい / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
フランスの海岸沿いの小さな村に、赤ん坊とやってきた「ぼく」はためらい続けて、なかなか行動に出ることができない。カメラアイのような精緻な描写が続いて、村の様子や赤ん坊の愛らしい仕草などは、読み手の心に浮かび上がってくる。それでも主人公の心のうちはなかなかつかめず、宙ぶらりんの状態に置かれてしまう。結末も曖昧でがっかりする面もあるのだが、すべてが解決されるよりは斬新。カフカの小説のように真実を裏側から語っていく感じ。緻密で流れるような文章が印象的で、物語の核にある謎をくっきりと浮かび上がらせている。
2014/11/23
白のヒメ
なんとも不思議。33歳の主人公(男)は8か月になる息子をベビーカーで連れてある海沿いの村のさびれたホテルに宿をとる。誰かに会うためにその村を訪れたらしいのだが、その誰かに会うのをひたすらためらうのだ。何事も起こらない主人公の時間の描写は、決してつまらないものではなく、多分私が主人公と同じように行動したのなら、きっと同じようになるのではないかと思わせる不思議な親近感を抱かせる。・・・しかし、この後彼はどうなるのだろう。むず痒い疑問を読者に残して物語は唐突に終わる。好き嫌いは分かれるかもしれない。
2018/02/03
みも
本作には何も無い。在るのは「種子」でしかない。その花を膨らませるのも枯らすのも、読者次第。その本懐は霞の様に朧な現実遊離の中に紛れており、読者の想像力だけが頼りである。全ては主人公の妄想か…もしくは夢か…あるいは、主人公は既に「死人」であり、幼子は「生」への未練を体現したものであろうか…。一人称で語られ極めて個人的で主観的であるにも関わらず、実存感が欠如している。徒労感にも似たアンニュイを纏わせる作品風情はカフカの『城』を彷彿させる。冒頭から一貫して不穏な空気を漂わせ、前衛的フランス映画趣向を窺知出来る。
2018/02/21
ジュースの素
黒猫の死骸が海に浮いていると言う書き出しで 読者は一瞬にして不吉な物を感じ、これから何が起こるかをアレコレ想像する。「ぼく」はサスエロに住むビアッジに会いに来た訳だが 最後まで二人の関係が分からない。夜中にホテルを何度も抜け出す不気味さや 移動するクルマの謎。結局 何も起こらず「ぼく」のためらいだけがモノクロームの霧のように涌いたり絡まったりする。赤ん坊がいる事で たった一つの「色」を成している。 独特の作法の小説だ。
2017/05/18
Mingus
浴室から二作目、今回のトゥーサンは、正直なところ噛み合えなかった(それは気分的なものかもしれないけれども)赤ちゃんを連れて小さな港町に現れた主人公は友人に会うべくか、逡巡する。話の筋はそれ以上でもそれ以下でもない。著者自身は何も取り扱っていない小説というように、文字通り物語は個人的な自意識によって展開される。それを創造性と評価するかただの独りよがりと捉えるかで話は変わってくる。でもトゥーサンの綴る小説はそんなことすらあまり重要ではなく、川が流れ風が吹くようにただ文章に身を委ねその心地を味わうものだと思う。
2017/03/19
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