蟹の横歩き ―ヴィルヘルム・グストロフ号事件
蟹の横歩き ―ヴィルヘルム・グストロフ号事件 / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
読友さんの感想がきっかけで読んだ本でした。まさか『ブリキの太鼓』でお馴染みのグラス作品からコンピューターという言葉が出るなんて予想外でした。当時の独ソの政情関係によって犠牲者を多く、出しながら、なかったことにされたグストロフ号沈没事件。母の繰り返される怨嗟の篭った、出生に絡む思い出話にうんざりする子、そんな父に対して事実を知ろうとし、祖母の怨嗟を晴らそうとする孫。事件が起きて判決が下されてしばらくしてからの母と孫の様子は日常に還った人そのもの。しかし、張本人達が終わらせても影響を受けた周囲は終わらせない。
2017/03/27
安南
第二次大戦末期、ドイツ避難民を乗せたグストロフ号はソ連の魚雷により沈められた。犠牲者は9000余名、史上最大の海難事故でありながら複雑な政治情勢のなか語られることはタブーとなり、人々の記憶からも抹殺されていた。人物もイデオロギーも一筋縄ではいかない登場人物達が、資料を掘り起こし、ネットで論争し、昔語りをすることで次第に明らかにしていく在りし日のグストロフ号の姿。史実と私事がジグザグ歩行、時系列も行きつ戻りつ、登場人物達のイデオロギーの紆余曲折も相俟って、まさに右に左にタイトル通り蟹の横歩きのような小説だ。
2014/08/09
tosca
ナチスドイツの誇る豪華客船グストロフ号の沈没はタイタニックよりも犠牲者の数が遥かに多いのに、背後にある政治的な状況により、この事件を語るのはタブーとなってしまったらしい。書かれている事の殆どが事実だというこの作品、現代と過去を行ったり来たりするし、時折、作者の影が登場したりして読みづらかったけれど、9千人以上が犠牲になり、その多くは子供や女性などの避難民だというのに、何十年もの間語られず、ほぼ知られていないこの事件、描かれているものが深すぎる。
2023/02/18
シュラフ
歴史というのは複雑系。タテとヨコにつながっていて、そして過去から未来へとつながっていく。第二次世界大戦時のグストロフ号の悲劇に至るにはその伏線があり、その事件は後々になり新たな悲劇へとつながっていく。ユダヤ人によるナチ幹部のグストロフ射殺→グストロフの名の客船への命名→ソ連軍潜水艦によるグストロフ号への攻撃→避難した妊婦の出産・・・。そしてその妊婦の孫は事件に大きな関心を持ち、やがて反ユダヤ主義へと傾注していく。そして悲劇はおこる。ひとつひとつの事柄は、あたかも蟹が横歩きしていくように、やがて事件になる。
2016/11/23
みか
【2023年8月5日読書会課題図書】読書会の様子はNOVEL DAYSで公開しています。ネタバレ感想注意。https://novel.daysneo.com/works/episode/114e5a2889d8d6cac2923f3f54f40727.html
2023/08/05
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