愛しあう
愛しあう / 感想・レビュー
ヴェネツィア
似たもの探しという訳ではないけれど、小説全体が醸し出すムードはパトリック・モディアノを思わせる。一方、描き方はカメラで追うようなロブ=グリエばりの視線の小説である。品川のアート・スペースのシーンでモニターに映るマリーを眺めるところなどはまさにそのものだ。そして、読後の印象に残るのは夜と雨の情景だ。表題の「愛しあう」は、不自然な感が否めない。原題にしてからそうなのだが、"Faire L'amour"と名付けながら、同時に愛を喪失した、あるいは喪失した愛を反芻する物語なのだ。小説の時間に静かに耽溺できる物語。
2017/04/26
ケイ
この作家は、デビューしてから数冊を読んだが、よく理解できなくて読むのをやめたのだった。今回もあまりよく理解できなかった。しかし、人気作家なのだから、こうした展開や作風は、受け入れられているのだろうし、私の感性と合わないだけなのだろう。
2015/05/07
たーぼー
すでに終局の予定された愛なのに、なぜ人はこの愛に執着し、熱にうなされる?暗闇に浮かぶ怪物のような街新宿。その光と、群衆と、ビル群。この緻密な空間一致の描写も見事ながら、その街を夢遊病的に徘徊する男とマリー。ここに色彩濃厚な、ピトレスクでロマン主義幻想を主張する世界が広がっているのだ。しかし、私が惹きつけられるものは物語が持つ、どこか『邪悪な』空気にある。私の脳に響くのは『毒』を所持する男の悪徳の讃歌だ。男の起こした或る残酷な行為。これも錯乱と愛への執着が生んだ一つの芸術であると錯覚してしまう。
2017/05/05
こぽぞう☆
先日読んだ「マリーについての本当の話」の前々作。恋の終わりを濃密にかつ軽やかに描く。「マリーに〜〜」でわからなかった状況が少し飲み込めた。著者は日本通らしいけど、何故か関東の冬に悪天候を被せてきて違和感がある。
2016/05/06
yozora
ユーモアは可笑しさと結びついてると思いがちだし、既存の作品はほとんどその系譜のものだった。だがここではユーモアが哀しみと結びついているため、読者の想像力を掻き毟るような深度の深いリアリズムとして結実している。処女作である「浴室」もまた悲劇的な恋愛をモチーフにはしていたが、「浴室」のようなヌーボォーロマン的な反復は削ぎ落され、物語としての強度が高められている。 自然を愛するトゥーサンが、新宿で着目したのがネオンの様々なひかりであったというのが、文中あるいは訳者あとがきで明らかになるが、妙に腑に落ちた。
2018/11/02
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