逃げる
逃げる / 感想・レビュー
ヴェネツィア
前作の『愛しあう』でもそう思ったが、やはりここでも夜が支配的な小説であり、モノトーンの世界が全体を覆うかのようである。今回、物語は画然と二つの世界に裁断されるのだが、前半の上海と北京では、語り手である「ぼく」からは全くといっていいくらいに主体性が奪われている。そして、それは読者にとっても進行する事柄の真相がわからないままであることを意味する。チャン・シャンチーは徹頭徹尾その正体が不明だし、リー・チーままた最後まで謎の女のままである。後半は陽光溢れるエルバ島に舞台を移すが、やはり支配的なのは夜だ。ここに⇒
2017/04/29
こぽぞう☆
「愛し合う」の続編だが、内容は「愛し合う」の少し前か。人物は動くのだが、その容姿の形容などは削られている。例えば、「愛し合う」「逃げる」「マリーについての本当の話」と読んだけど、マリーの年齢も髪の色もわからないのだ。それでいて、心の動きには精緻な描写。面白い作家だ。
2016/05/23
たわ
行きずりの女性に誘われるまま赴いた北京ではなんらかの事件に巻き込まれ、恋人の父親の葬儀のために向かったエルバ島では彷徨のあげく夜の海に泳ぎ出す。たいがい脈絡のないトゥーサン作品の中でも本作は特に脈絡が無い。どこに向かっていくのか見えないという点では「ムッシュー」や「テレビジョン」に近いのだが、これらの作品に見られた散漫さを感じることはなく、小説としての完成度は高い(と思う)。北京とエルバ島、大きなシーンがふたつしか無いのだから、散漫になりようがないのかもしれないけれど。
2020/06/26
I am
「愛しあう」の続編。傑作。北京にもエルバ島にも、どこにも行ったことのわたしが、埃や不安までリアルに感じられるほど、類をみない表現力!!トゥーサンの集大成。「いきいきとして、シンプルで、正確で、官能的で、効き目ある文体」って本当にそうだなあ。感激した。
2011/06/05
東条
『愛しあう』の続編だが、時系列的にはそれよりも3ヶ月ほど前の話。『愛しあう』と同じ主人公のはずだが、むしろ『浴室』の主人公に似て何だか掴みどころが無く、いちいち不安にさせられる。中国での話はまさにトゥーサンを象徴するような出来で、懐かしささえ感じるほど。コミカルな緊張感が特徴的な一冊。
2012/02/01
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