ジャムの真昼
ジャムの真昼 / 感想・レビュー
みも
『死の泉』を読む為の、前哨戦程度と捉えていた本書だが、そんな愚昧は木端微塵に粉砕された。退廃美がグレーに染める夢幻世界は、僕の侵入を拒む塔のように聳え立つ。自分の読解力の欠如を突き付けられ、僕は歯噛みし、苛立つ。25頁前後の7篇。発表は全て「小説すばる」で98年~00年と古い作品群だが、時代のギャップは感じない。時に時系列が交錯し、この世ならぬものが揺蕩い、生と死の境界が曖昧になる。その朦朧たる手触りは僕を幻惑の中で溺れさせる。到底咀嚼したとは言い難いが、生死が揺らぐ『森の娘』『少女戴冠』の2作が印象的。
2020/11/17
mii22.
幻想的かつ背徳的な秘密の匂いがする一葉の写真や一枚の絵から紡がれる物語。生も死ももはや問題ではない世界に放り込まれた私は自分が正気なのかさえ疑って不安が募るが、狂うことにも死にも畏れは感じない。いつもの危険地帯(皆川魔界)に踏み込んでしまったな。こういった幻想短篇集は本当に危ない。最後の「少女戴冠」で、はっと我にかえる。戻ってこられた。でもまたすぐにこの幻想的な世界に囚われ酔わされたいと思うのだ。
2018/11/12
*maru*
短編集(全7話)。一枚の絵画や写真をモチーフに綴られた作品集。物語の冒頭を飾る絵画や写真にまず圧倒される。視覚で好奇心を煽られ、静謐なのに力強く情熱的な言葉で心を鷲掴みにされ、興奮と感動で全身がざわめき、1話毎に、1頁毎に溜め息が漏れる。詩的な文章は決して一読では理解出来ない深みと趣を醸し出し絵画や写真と相まってまるで芸術作品のよう。夢か現実か。正気か狂気か。誰の言葉が正しいのか。語り手の言葉は信頼に値するのか。背徳的で不条理で幻想的で闇に引き摺りこまれる…。本作のような皆川氏の作品がやっぱり好きだ。
2017/01/20
藤月はな(灯れ松明の火)
残念ながら恩田陸さんの「六月は夜と昼のあわいに」は絵と物語が合わなかったのですがこちらはぴったり合っていて陶然とした喜びを感じました。人間性の蹂躙と夢か現かわからなくなる境界、淫靡で背徳的且つ凄惨であるからこそ妖しく、美しいと思わずにはいられません。
2012/02/10
さや
一葉の写真、一枚の絵画から創られた短編集。まず取り上げている絵や写真の美しさと背徳感にしばらく見入る。この強烈に刺さる絵や写真をどこから見つけてこられるんだろうかと皆川先生の美術への造詣の深さと美的センスに圧倒される。そしてそこから産み出された物語の凄艶なこと!「ジャムの真昼」「少女戴冠」が特にお気に入り。「ジャムの真昼」の砂糖を煮詰めたベタりとした甘さに野生の木苺の苦味が残るような読後感。そして、ジャム瓶と過去と現在の行き来。だんだんと真実が見えてくる描写にゾクゾクした。
2021/07/29
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