総統の子ら
総統の子ら / 感想・レビュー
文庫フリーク@灯れ松明の火
【あらゆる死を、ぼくはすでに死んだ あらゆる死を、ぼくはさらに死ぬ 樹木になって樹木の死を 砂になって土の死を 総統の子になって・・・】歴史は押並べて勝者によって創られる。アウシュビッツを始め、罪は罪として裁かれるべきだろう。しかし第12SS装甲師団(16~17歳の兵士)やヒトラーユーゲント(10~18歳)の半ズボン姿の画像を見る時、仮に自分がこの時代のドイツに生まれていたとしたならば、愛する者を守るため・あるいは国全体の高揚した愛国心に育まれ、戦士となることに何の疑問も抱かなかっただろう。→
2015/01/07
ももっち
作者がその場で見聞きし体験したような息遣いを感じる重厚な作品。第一次大戦で敗戦後、ヒトラーというカリスマの台頭により復興の兆しを得たドイツ。新たな戦禍に進むヨーロッパの混沌とした情勢が緻密に描かれる中、最高エリート養成を目的とした学校ナポラに入学した少年達の生涯が織り込まれる。ナポラ卒業後のドイツ周辺の戦地での攻防は生々しく凄惨を極める。各戦場においては戦い合う双方が勝つ為に懸命で残酷で卑怯だったのに、戦勝国のみ正義となり、虐殺も虐待も正当化される違和感。一方向の視点では見えないものを見せつけられた思いだ
2019/02/21
けい
ドイツ第三帝国の隆盛から滅亡までを若きSS隊員であるカールとヘルマンの目を通して描く歴史小説。民族間の歴史的な怨嗟を詳細に描きこむとともに、若き登場人物達の純粋かつ死線を越えてきた老練な心情を克明に描き出していきます。皆川女史独特の血の匂いと腐臭が漂う凄惨な戦場描写を通じて、戦争に正義などないことを改めて認識させられます。歴史的な犠牲を元に今日の我々の生活がある事を再認識させてくれる作品。女史渾身の文章には終始圧倒されっぱなしでした。
2014/04/20
harass
図書館にあるのを知り借りる。620ページ二段組。1934年ドイツ、ナポラ・ナチ党員養成機関を受験する二人の少年は出会い、武装親衛隊に入隊し、戦後までを描く歴史小説。自分はこの作家の「死の泉」しか読んだことがないが、創作と史実をどう組み合わせるのかを確認しながら読む。著者は正義とはなにかを読者に突きつけていて、非常に重い読後感がある。国を愛する少年たちの心情や国が負けるということ、奇々怪々な国際情勢のにやるせない気持ちになる。不条理極まりなく、そしてそれが現実という事実。女流作家だが軍オタの自分にも納得。
2017/03/07
Rin
【図書館】とても長い長い物語。答えの出ない戦争の「罪」「発展と侵略」について、とことんまで考えさせられる。戦争は語る側の立場によって「正義」と「悪」が変わる。自国を信じ仲間を守り、国の為に正々堂々と力のある限り戦った。それでも敗戦すれば極悪人として処刑される。敗戦国だけが悪なのか?無差別に虐殺し、死者を冒涜し捕虜に非人道的な扱いをした他の国々はどうなのかと、読みながら沈み込んでしまう。そして読了後にはヘッセの「あらゆる死を、僕はすでに死んだ、あらゆる死を、僕はさらに死ぬ…」という詩が頭に残っていました。
2015/09/01
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