読む人間
読む人間 / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
大江健三郎氏の本をテーマにした講演集。難解な小説とは異なる語り口が新鮮だった。文学からの引用は多いが、大江さんが自分の胸の内をさらけ出して語っているような趣がある。出発点が仏や英の詩だったところが興味深い。あの独特の文体は海外の詩を自分なりに消化したことから生まれたのだ。読むことが生きることであり、私は「読む人間」として生きたと言い切るところに、本好きとして深く共感した。とても大江さんのようにはなれないが、私も「読む人間」として生きたい。
2016/05/28
マエダ
「読む人間」とは「引用する人間」という。 大江健三郎が関係をとるのが嫌だと感じたのは 本を貸して返さぬばかりか古本屋に売ってしまった友達と言ったり書いたりしたことを不正確に引用した友達とのこと。引用の大切さ。
2023/06/13
アナーキー靴下
自身を読む人間と語る大江氏による講演集。修行者のように本を読み、研究者のように作品を書く人、という印象を受けた。数多の本から、人間の本質や哲学などを探求し続け、詩や一文で表現できるくらいに研ぎ澄ましてから、それを小説として表現していったのではないかと。徹底的に分析して生み出した作品だからこそ、大江氏が色濃く存在するのだろう。読んだ本を次々と紹介し、本から受け取ったものを感想として書き綴っている、読書メーター利用者には、引用された一節はまさに自分ごととしても響くはず。「なんだ、君はこんなところにいるのか」
2020/10/31
fishdeleuze
大江氏の読書の方法と小説への転化、すなわち読書の方法=小説の方法論についての興味深い講演。大江氏は,三年に一度集中してある決まった作家を読み、その世界に没入するとともに、自らや自らの周りの出来事をその時々の読書で得た世界観を経て小説へ「普遍化」していく。本読みの技術とともに、中年期以降、大江が集中して読んできた作家、ダンテ、イェイツ、エリオット、ブレイク、そしてサイードについて語られており、この時期の大江の作品の解説であり、また秀逸なブックガイドとなっている。
2013/06/11
amanon
久しぶりに手にした大江の作品。それまであまり知らなかった著者の読書歴が詳細に語られているのが、興味深い。個人的には冒頭にシモーヌ・ヴェイユに触れているのが、とりわけ印象的だった。彼女の名前を思わぬ所で目にすると、いつものことながら何とも言えない感慨を覚える。後、印象的だったのは、サイードと共に、幾度となく言及される、義兄であり長年の親友だった伊丹十三。高校時代互いに孤独だった二人がごく自然と友達になり、色々なものを共有するに到ったというエピソードが良い。例え後年、二人の間に愛憎関係が生じたとしても…
2014/10/31
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