東京大学で世界文学を学ぶ
東京大学で世界文学を学ぶ / 感想・レビュー
s-kozy
2009年の春から初夏にかけて東京大学大学院で開講された「近現代小説」と題する著者による全14回の講義を基に構成した書。本書は第一講義〜第十講義という章立てでなる。非常に面白く、「ボヴァリー夫人」や「赤と黒」の構造をここまで深く読んでいなかったなと、近代小説のいわゆる名作を再読したくなった。「表現は自由だ。特に文学は聖域だ、文学は無罪だ。(略)これを100%鵜呑みにしてしまうと、言葉がなんら現実的な力を持たないということを、みずから宣言するようなことになりはしないか」なんて言葉の力、小説の力を(続く)
2014/07/18
春ドーナツ
空想ですが、編集者がタイトルを付けたような気がする。シンプルで好奇心を掻き立てられました。19世紀の所謂近代小説が俎上に載せられます。手帳に書き写すことも忘れて「なるほどなあ。そういう考え方(捉え方)もあるのだ」と文学愛がさらに旺盛になりました。普段近寄らない図書館の「文学全集コーナー」で仁王立ちして(閑散としているので)ずらりと並んだ背表紙とロングにらめっこをする。中央公論社版「新装世界の文学セレクション36」(山本容子さんの温かみのある点描画)の「スタンダール」と「カフカ」を取り出して、矯めつ眇めつ。
2018/12/23
ナハチガル
物語は本来危険なもの、翻訳とは作品の中にある純粋言語を解放すること、小説の誕生とは現実の発見である、などなど、小説そのものについての講義は濃密だが読みやすく刺激的。古今東西の文学についての言葉の引用も名言ばかり。作品論は未読の『ドン・キホーテ』が大量の引用とともに丸裸にされていたので、『ボヴァリー夫人』『白痴』『悪魔の詩』についての講義はお預けにしておくことにする。いつか本編を読破した暁に。オルテガ・イ・ガセット「マダム・ボヴァリーはスカートを穿いたドン・キホーテで、魂の悲劇のもうすこし小さいもの」A+。
2017/03/10
マカロニ マカロン
個人の感想です:B。『寂しい丘で狩りをする』を読み、映画に対する著者の思い入れの深さに感心しましたが、世界文学を東大で講義するというその教養の深さにまたまた感心してしまいました。「小説」とは昔の中国で政府雇いのフリーライターが「町に出かけていって噂話を聞いて、メモをとって、まとめて、それを上官に提出」したことから、つまり「町の噂」と言うことで、中国の歴史書を「大説」として相対する存在。近代まで自然描写と言う考え方はなく、芭蕉の「奥の細道」には自然描写は一行もないらしい。『ドン・キホーテ』を読みたくなった。
2015/04/29
KIO
小説を好きな方なら是非読んで欲しいと思います。小説の構造、解釈、技法について、深く真剣に考えている人がいることがわかります。そして、近代小説の名作は、激しく力強いものであり、人間に強烈に向き合っていることもわかります。名作を実例にとりながら読むパートが多いですが、実例→解釈の具体性が良いけれど、客観性や論理性が落ちるので、学問的体系性からは距離が出来ていると思います。純粋に小説の技巧を知りたければ、ロッジ「小説の技巧」が客観性が高く、簡易でわかりやすく、そのうえ応用も効くので、ずっとお奨めです。
2012/09/24
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