裏ヴァージョン (P+D BOOKS)
裏ヴァージョン (P+D BOOKS) / 感想・レビュー
圓子
普段は蓋をしてやり過ごしているような痛みや不快感を書かせたら、当代随一の作家ではないだろうか。身体的な痛みの描写もすごくうまいけど。私は、昌子の部分も鈴子の部分もどっちも持っているから、内なる二人の殴り合いのようにも読める。いや?もしかして昌子の(あるいは鈴子の)一人遊びだったのだろうか…。
2018/04/27
lala
『ナチュラル・ウーマン』と並び、わたしにとって最も重要な本の中の一冊かもしれない。「創作」を介した女たちのつながり、性愛に至らないがあまりにもつよい絆、ほんとうにユーモアと愛とエモさでいっぱいで、すばらしいという他ない。「ともだち」にときめくこと、性愛ではない繋がりを求めること、わたしたちの「親密性」は実に様々でありうること、を全力で肯定してくれる物語だとおもった。こういう風に生きたいし生きよう、というきもちでいっぱい。中年女たちの絆にときめきが止まらなかった。だいすき。
2018/02/06
dokusyotyu24
すごく面白い。著者の松浦理英子さんは、小説の語り手という制約をとても上手く利用する方だと思う。今回の物語は、主人公の書く短編小説と、その小説に対する友人のコメントという変わった形式で構成されている。最初の数編の小説は主人公から離れた世界を描いているが、だんだんとそれらは私小説じみてきて、私たち読者に主人公と友人の関係性を明らかにしていく。小説とコメントの合間から覗き見える、恋人になれなかった恋人以上の友人である二人の関係はスリリングであり、非常に面白い。また改めて『最愛の子ども』も読み返したくなった。
2021/06/12
かめすけ
松浦理英子ワールド全開。いわゆる竹村和子の言う「〔ヘテロ〕セクシズム」を解体することを、松浦は物語を上梓することで行っている数少ない作家。今作はメタ構造を使い、友人でも恋人でも家族でもない関わり合いを描く。作中作も昌子・鈴子の台詞の掛け合いもリズミカルで楽しく、『最愛の子ども』の設定を書くようなところも現実とフィクションを織り交ぜ読み手を翻弄する感じ、ついつい心に乗ってしまいました。
2024/07/12
二階堂
私は文学にこういうものを求めていたんだ、と気づかされた凄い作品。特別な共感性を分かち合った高校生時代、挫折と失望の20代、もう一度と願った40歳、こう言ってみれば凡庸に聞こえる物語を「小説を読む/読ませる」という構造に落とし込むことでこんなにも面白い小説になるなんて、本当に感動してしまった。昌子の希求も鈴子の切実さもともすれば愛と呼ばれるものに落ち着く可能性があったのに、2人はプライドや性的欲求のすれ違いによってどうしようもなく拗れてしまう。それでもそばにいようとする女と女の物語、これが読みたかった!!!
2022/03/05
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