暁の密使
暁の密使 / 感想・レビュー
みも
19世紀末、神仏分離令を受け、仏教復興を目途にチベットを目指す学僧「能海寛」の物語。苛烈な道程にひた向きに立ち向かう姿に感動。日清戦争に勝利した日本が、アジア大陸覇権を争う欧米列強の脅威に晒されながら、日英軍事同盟締結、日露開戦へと至る不穏な時代を非情にも見える硬質で冷徹な筆致で描き切る。陰謀、諜報活動、復讐等を絡ませ、史実と虚構が混在しており、知識の無い僕には判別できないが、惨殺や山岳シーン等の圧倒的なリアリティーが、強烈なインパクトを持って眼前に迫る。心に残る揚用の言葉「あの男の純粋さが眩しいのだよ」
2016/07/23
ryohjin
神仏分離令で打撃を受けた仏教界の復興のため、大蔵経を求めチベット潜入を目指す仏教僧、能海寛を主人公とした冒険物語。日清戦争に敗戦し荒廃する清を舞台に、欧米列強やロシアのアジアにおける覇権を巡る動きの中、厳しい山岳路をたどる鎖国中のチベットへの旅は困難を極めます。実在の人物を元に著者が創作した物語には、この時代の熱が感じられ、主人公のひたむきさに惹かれ、歴史の大きな流れのなかで前を目指す一人の人間のたしかな存在を感じます。この物語にも登場する河口慧海の『チベット旅行記』も読んでみたくなりました。
2023/06/27
藤枝梅安
「狐闇」の後半に出てくる「明治時代、西蔵を目指した二人の日本人」という一節がこの小説につながっている。時代が江戸から明治に移り、日本という国家の体制もめまぐるしく変化していた頃。信長の時代に分裂した石山本願寺はその後、西本願寺と東本願寺として存続しているが、西本願寺が秀吉・天皇家の庇護を受けていたのに対し、東本願寺は徳川家の庇護を受けていた。幕府が倒れ明治政府が天皇を押し立てて富国強兵策を進めるのに伴い、東本願寺派のは苦境に立たされる。
2009/10/04
9
世界というのは不安定で、そして人間はあっけないものなんだな。仏教の為にラサを目指す一途な能海に好感。場面はめまぐるしく変わるが、読みやすかった。この辺の時代の話は興味も薄く知らないことばかりで蜻蛉始末とか鹿鳴館とか面白い。日英同盟とか三国干渉とか勉強したけど、当時の各国の思惑が分かって、受験の時に読んでたら良かったなー。
2011/02/20
昼フクロウ
19世紀末、鎖国政策を続け世界地図の最後の空白と呼ばれたチベット。そこを邦人ではじめて到達した探検家といえば河口慧海が有名だが、あえて到達に失敗し砂漠の砂と消えた能海寛にスポットを当てている。明治時代、未だ近代国家への道半ばの幼子のような日本と権謀術数に長けた諸外国。虐げれる現地の罪なき民。そんな混乱の時代に、ただひたむきな信仰心からチベットを目指す能海の素直さ愚直さ危なっかしさに、チベット行を手助けする人々と同じような気持ちになる。「能海よ行こう、拉薩へ」
2012/01/31
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