ミラノの太陽、シチリアの月
ミラノの太陽、シチリアの月 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
エッセイのつもりで読み始めたのだが、ここに収録された10篇はまぎれもなく短篇小説である。しかも、すこぶるに上質な。題材そのものは、著者の体験に基づいてはいるのだろうが、そこに幾分かのフィクションが揺曳するようだ。しかし、何よりも見事なのは、その構成の妙だ。そして、イタリアとはいうものの、風土も人もそれぞれに個性の際立つミラノであり、リグーリアであり、シチリアが描き出される。ロシア皇女の、またナポリの邸宅の女主人の何という濃密な人生。そして、それらの人々と巡り合う内田洋子さんの秘められた力と抑制された文体!
2016/11/04
どんぐり
内田さんのイタリアをめぐるエッセイ全10話。テラスから望む風景が気に入り購入したアパートの改装工事を行う「ミラノで買った箱」、その上階の「六階の足音」の持ち主イーダとアパートの住人たち。ミラノからトリノ、ナポリ、シチリアへ山と海の風景に描き込まれた人間模様はエッセイというより、もはや物語の世界だ。なかでも、駅舎に住む「鉄道員オズワルド」の話がいい。
2019/04/01
emi
こんなイタリアを、暮らすように旅したい。読友さん推薦の、著者から見た市井のイタリアの暮らしのエッセイは、とても品良く、だけど嫌味のない心地よさで、読み終えてしまうのがもったいないと思ったほど。うーんこの人はすごく好きだなぁ。なんというか絶妙なバランスの良さの文章。ちゃんと読み手に想像させるし、何度も胸を打つ。私の知ってるガイドブック的イタリアではなく、きっとこっちが地に足のついた姿。だけど、どっちが好きかと聞かれたら、悲喜交々のこちらが好きだと答える。各章のタイトルまで素敵な心掴まれる素晴らしいエッセイ
2016/11/21
アン
『ジーノの家』に引き続き、イタリアの日常生活を綴ったエッセイ集。内田洋子さんとは解説の言葉を借りるなら、偏見を持たない生粋のノマド(遊牧民)。順風満帆な人生ばかりではないと体験をしているからこそ、生み出される作品は、太陽のように燦々と和やかに、月のように仄かにひっそりと心に光りを照らしてくれるのだと思います。
2018/11/25
さとか
ミラノとシチリアに生きる人々の、それぞれの人生の「光と陰」を描いた随筆集。ミラノは寒くていつも曇り空、対するシチリアは太陽あふれる温暖な地域…そこを作者は自由に転居を繰り返しながら、周囲の人々と交流してゆく。 短期間の旅では分からない、一歩踏み込んだ彼らの日常に見たものとは。 どのお話もとても読み応えがあり、甲乙つけ難い。 読み終わると、イタリアに行きたくなること間違いなし。 こういう系で、日本版もあったら楽しそう。
2020/10/03
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