サルデーニャの蜜蜂
サルデーニャの蜜蜂 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
この人の本を読むと、いつもながらそのイタリア感の横溢に全身を包まれる。どのページにもイタリアの香りがするのである。それはけっして陽光溢れるなどといったステレオタイプのそれではない。ほんとうにライブなイタリアがここにある。また、彼女が知り合うイタリア人は、誰もが何と濃密な人生を送っていることだろうか。かえりみて自分の人生の浅薄さに落胆するほどに。そして、これらはエッセイなのだが、それぞれの各篇はあたかも小説であったかのような感慨を読後にもたらすのである。
2023/11/29
アン
イタリア在住40余年の経験を通し綴られた流麗な文章から、人々の温もりや息遣いが伝わる、ほろ苦くも美しいエッセイ。地下の防空壕で母との想い出に引き寄せられる「壁の中の海」、喜びや家族の慈愛の光を得て輝く「私の宝石」、時が家に価値を加え、移り住んだ土地の数だけある「傷の記憶」、苦味が消えて高山植物の甘い後味を残す「サルデーニャの蜜蜂」…。イタリアの豊潤な自然、彩り鮮やかな料理やお洒落な着こなし、異国の地での魅力的な人々との触れ合い。内田さんの親しみ深いお人柄と心のしなやかさが伝わる味わいのある一冊です。
2020/10/13
どんぐり
内田さんのイタリアをめぐる最新エッセイ15篇。本を売り歩く「壁の中の海」、船上生活の「波酔い」、ジーノの家の「満月に照らされて」など、どれも内田作品で読んだことがあるような既視感。ミラノにヴェネツィア、サルデーニャに、よもや書くネタが尽きてしまったわけじゃありませんよね、内田さん。次回作に期待しましょう。
2021/06/11
アキ
イタリア在住30年を超えて、同じ国内でもミラノ・南部カラブリア・リヴォルノと地域毎に違う街の歴史は、幾千もの無名の人達の営みが積み重なって成されるもの。ふとしたきっかけで知り合った飾り気のない市井の人々の人生の断面が15篇、著者の目を通して語られる。いつものような匂いたつような妖しさを、60歳を超えた著者に期待するのはお門違いなのでしょう。題名と表紙の写真が魅力的なのはいつも通りですけれど。蜂蜜は島のエキスだ「サルデーニャの蜜蜂」ミラノの特産品はお金だろう「迷える庭園美術館」など、小気味いい文章たち。
2020/07/09
pohcho
冒頭の一編がすごい。父母から離れて独りぼっちになり、大好きな本を抱きしめて、地下の真っ暗な防空壕の壁を一心不乱に舐めた・・。ホロコーストを生き延びたユダヤ人女性が語る、十歳の少女の頃の思い出。短いエッセイなのに、一本の映画を見たような・・。「満月に照らされて」「聖なる人」もよかった。フィクションではないので、綺麗にまとまらない苦い話も多いけど、それもまた人生。異国に住みながら、こんなにも多くの人と、こんなにも深く関われるなんてすごい、といつも思う。装幀もとても美しい。珠玉のエッセイ集。
2020/06/06
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