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父のビスコ

父のビスコ

父のビスコ

作家
平松洋子
出版社
小学館
発売日
2021-10-26
ISBN
9784093888417
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父のビスコ / 感想・レビュー

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どんぐり

読売文学賞(随筆・紀行賞)を受賞した岡山県倉敷出身の平松洋子さんのエッセイ。金平糖、露天風呂でのみかん、アミの塩辛、岡山の郷土料理「祭りずし」、倉敷の銘菓「むらすゞめ」など食にまつわる話が三世代の思い出とともに出てくる。表題作は、父親が最期に食べたいものがビスコと書いたメモを見て、急いで赤い箱を買いに走ったという話だ。日本にビスコが登場したのが1933年。92歳で亡くなった年齢を考えれば、幼少の頃の記憶が深く刻まれてのことだろう。自分だったらビスコはないなと思いながら読み終える。→

2023/01/09

たま

健啖家の平松洋子さん、食べ歩きの随筆は拝読しているが、この本はやや趣が異なり、生まれ育った倉敷や子ども時代の思い出が多く語られる。執筆中に実家を整理され父君を亡くされたようでその影も濃い。世代が近い私はとても懐かしく味わいながら読んだ。我が家にも鉄棒があったし、酢飯は団扇で扇ぐ係だった。具材は瀬戸内の平松家が豪華で、酢〆の鰆や平を入れると言う。途中に倉敷の旅館(旅館くらしき)の女将である畠山繁子さんの著書の紹介がある。美術館、民藝館をはじめ倉敷の人々が誇りとし守ってきた暮らしの豊かさに心をうたれる。

2022/06/13

がらくたどん

シニア向けの朗読会用。本書から3篇を主催側から渡されているが本としての雰囲気を知りたくて。各地の食と暮しを文化の文脈で紹介するエッセーが多い著者の、家族にまつわる食の記憶。特に亡き父上との「食べ物」を間に挟んだ心の行き来を描いた文章が印象的。決して具体的なわだかまりがあるでもないのに親子の間に生じる「へだたり」(この表現は素晴らしいと思う)が「食べ物」を真ん中に置くことで一瞬だけ確かな手触りを持って親密さに変わる時がある。その瞬間は儚く尊いが、身に刻んだ食の記憶がやがて来る喪失を癒すのかもしれないと思う。

2022/05/31

よこたん

“母は、自分がこしらえたすしの桶を眺めると、少々うっとりとした響きをまとわせて「まんかんしょく」とつぶやいた。”“ 酢〆の魚。殻ごとゆでた海老。たれ焼きの穴子。煮いか。煮含めた干ししいたけ。干瓢。高野豆腐。れんこん。さやえんどう。錦糸玉子。” 平松さんを形作ってきたものが、ギュッと詰まっていた。生まれ育った倉敷、家族の思い出。噛みしめるように読んだ。もう戻ることはできないけれど、何度も振り返り、コロコロと転がし味わう記憶の飴玉。祖父へ父への「そうだったのか」という思い。私なら…と思いをはせるひと時だった。

2022/04/09

クリママ

倉敷出身の著者の食や生活に関するエッセイ。私より5歳若い方だが、ほぼ同世代で、かつての家庭生活の様子など、とても懐かしい。「お百姓さんが汗水たらして作ったお米だから、ご飯を粗末にするとばちが当たる」などとしょっちゅう言われたが、今、子供たちはそのようなことを言われているのだろうか。「旅館くらしき」の女将の随筆を挟み、尖ったところのない穏やかな文章で綴られ、心に優しい。「父のビスコ」のビスコとは、お父様が最期に食べられたあのクリームサンドビスケットのことだった。

2023/03/30

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