若冲が待っていた: 辻惟雄自伝
若冲が待っていた: 辻惟雄自伝 / 感想・レビュー
trazom
日経新聞の「私の履歴書」は当りハズレの差が激しいが、二年前の辻惟雄先生の大当りの連載に加筆したのが本書。抜群に面白い。何度読んでも笑えるのは、文章に滲み出た先生のお人柄の賜物である。両親、恩師、弟子たちに対する眼差しが、感謝と優しさに満ちて本当に温かい。辻先生が「奇想の系譜」を著さなければ、今の私たちは、又兵衛、蕭白、若冲、狩野山雪、国芳、芦雪に出会えてなかったかもしれない。パトスをもって美術史に向き合う辻惟雄先生こそ、正に「奇想の美術史家」(山下裕二先生)なんだ。こんな幸せな気持ちになる本は久し振りだ。
2023/02/16
パトラッシュ
又兵衛、蕭白、若冲らの作品は辻さんの紹介で初めて知っただけに、回想の「私の履歴書」は興味深く読んだ。医者になるつもりが病気で断念して美術史の世界に転じ、恩師の紹介で奇想の画家たちに開眼し、江戸絵画の再評価を促すまでになった経緯は、ほんの少し道がずれていたら若冲ブームも訪れなかったかもしれない。また著者が日本美術の特質とする「かざり」「あそび」に注目するきっかけや、同級生の高畑勲との関係から絵巻物をアニメの源泉と考えるなど、美術の見方を変える補助線が「待っていた」ように現れるのは本当に偶然かと思えるほどだ。
2023/03/26
booklight
おお、『奇想の系譜』辻先生の自伝。なにやら面白くて一気に読んでしまった。もちろん研究のことも書いてはあるのだが、通奏低音のように流れる絶妙な人柄のおかしみが滋味のように効いて、読む手が止まらなかった。所々にでてくるエピソードもそのおかしみの下地からの結実のように思え、先生の実像が言外に感じられた。派手な出来事や言葉になったものは伝わりやすいが、そういった人間性の基礎部分が興味深い。美術史とは、『片目のだるまの、見えないもう片方の目を入れる』仕事、というのはなるほど。補助線を入れる仕事というのはいいね。
2024/07/13
Mirror
亡き義父と共に訪れた奇想の系譜展 辻先生が、掘り起こしてくれなかったら出会えなかった作品達。多くの方が慕うのは人柄ゆえであることがよく分かった。
2023/03/18
飼い猫の名はサチコ
伊藤若冲を現代の人気画家に蘇らせた立役者の先生の自伝。先生の人生において、色々な縁の繋がり、巡り合わせがうまくハマらなければ、今、一般人が若冲の名を知り、美術館で若冲の絵の前で心ゆくまで見惚れる贅沢は味わえなかっただろうと思う。感謝して読了。
2023/12/08
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