砂のクロニクル (下) (小学館文庫 ふ 4-9)
砂のクロニクル (下) (小学館文庫 ふ 4-9) / 感想・レビュー
kaoru
骨太な物語。イランの民族紛争がテーマ。テレビの中でしか知らない世界にも、英雄や悪人ではない普通の人間が生きていきていて、考え、苦しみ、もがいています。私とは縁遠いと思った世界が不思議と身近に感じられました。
2017/05/11
ひよこ
重量感がハンパない作品!舞台は1990年前後のイランが中心で、当時の世界情勢をとても詳細に書かれていることもすごいが、なんと言っても登場人物が魅力的!誰一人明るい人生を歩いているわけではないけど、こいつを主人公にして小説が一つできるんじゃないのっていうキャラクターが少なくとも3人いる!そんな登場人物たちが一つの小説に詰め込まれていることが、この作品のすごいところだと思う。読むのに時間と集中力が必要だったけど、読了後にはハッピーエンドで終わる小説では絶対に味わえない虚脱感と満足感があります。
2015/12/21
姉勤
革命、理想、独立、民族、殉教、主義、そして、復讐。個を超えた大義に心を任せた時、人は恍惚の中に生き、死ぬ。たとえ激烈な痛みが伴おうとも。イラン革命に端を発し、湾岸戦争前夜を以ってひとまず筆を置くこの戦史は、数多の名もなき人々の哀しみによって紡がれて、そして人間が地球にある限りとともに続く。モスクのモザイクの一ピースのごとく、縁が戦いを生み、因と成り、果となる。ハジと呼ばれる二人の日本人が関わったイランにおけるこの闘争は、有史以前から何万何億と繰り返された、ひとの営み。偉大な唯一神が振った賽子の目。
2016/04/19
きょちょ
背景にあるのは戦争なんだけれど、特に迫力があったり凄まじいわけではなく、むしろ淡々とした文章。 しかし、実に壮大な人間ドラマであり物語だった。 宗教や革命は、本来は、人間がよりよく生きる為に、あるいは、人間をより幸せにしようと考えることから始まるはずだが、この作品に出てくる、アッラーやイスラム革命はむしろ多くの人を不幸にしている。 主人公と言える人たちが最後同じ所に集まるのは、うまく創っているし、感動。 皆、それぞれ美しくそして哀しい。 ★★★★
2017/03/03
geshi
ハジもシミルもアアハマドも、自分の守ろうとするものにあまりにも純粋でありすぎたが故に、大切にしていたもをの自ら手にかける。その哀しい孤高が胸をえぐる。あらゆる運命が一つになり、彼らが悩み苦しんできた事を無意味にしてしまう、あまりに無慈悲なクライマックス。国家の大いなる力の前で個々の思いなど簡単に消し飛び蹂躙される虚無を見るに、歴史とは勝者の物語である、という言葉を思い起こさせる。これはクルド人だけの物語ではなく、名を残さぬ者達の失われた戦いの物語だ。
2015/05/31
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