眠れる美女 (新潮文庫)
眠れる美女 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
表題作は、川端康成61歳の作品。作中の主人公江口老人は67歳だから、来るべき自身の老境を見据えての作だろうか。そんな家が、どこかに確かにありそうな強いリアリティを持って迫る小説だ。ここで追求されているのはエロスの本質なのだが、誰しもすぐに気がつくように、それは死のタナトスと隣り合わせにしか存在し得ないもの。しかも、逆説的なのだが、それは性の不能性とさえも隣接したところにある。また、性の対象の固有性への挑戦と問いかけでもあった。そして川端自身の生への強烈な執着と、これまた逆説的に諦念とが同居する物語だ。
2014/03/23
こーた
読んでいるだけで触れているような感覚に襲われる。眠る若い娘の肌に指を這わせる。感覚は研ぎ澄まされて、あらゆる外側の描写が、読むものの内側をつつく。狭い部屋。暗さと明るさ。遠くに聞こえる水の音。びろうどのかあてん。色。匂い。眠る女の体温。肌の冷たさと暖かさ。匂い。かすかに上下する胸。息づかい。暗く狭い部屋に閉じこめられた閉塞感が、うちに秘めた背徳心をくすぐる。周囲を徹底して描くことで内面が浮かぶ。わっと本を放りだしそうになる。
2019/09/18
だんぼ
二階のいつもの部屋は ストオブであたたまっていた いい煎茶を入れるのも 変わりはなかった
2023/10/27
zero1
ヘンタイの世界へようこそ?これぞデカダンス?江口老人は67歳。裸の娘と添い寝する「眠れる美女」に通う。娘たちは眠ったまま起きない。どう終わらせるかと思ったら、オチがあった。「片腕」「散りぬるを」を収録。解説は三島由紀夫。表題作は傑作であり、ネクロフィリア(死体愛好症)につながると述べている。各国で5回映画化されている。ノーベル賞作家の川端は「みずうみ」で元教師のストーカーを描き、ある意味時代を先取りしている(笑)。川端が単なるヘンタイでない証拠は無駄のない文章にある。これは私のような凡人には真似できない。
2018/12/04
風眠
あの三島由紀夫があとがきを書いているという、ものっすごい一冊!天才と天才の共演、みたいな豪華な文庫本。誰がなんと言おうと宝物である。女の人を相手するには、ちょっと年を取りすぎてしまった男性が、眠っている若い女に添い寝する目的で訪れる、とある秘密の場所。もう女の人の相手はできないけれど・・・という往生際の悪さが、人間くさくていいなと思う。若い女に添い寝しながら、かつての恋人や愛人とのあれこれを逡巡する姿が、寂しくもあり愛らしくも感じる。老いという人生の寂しさと儚さを描いた作品。しかし川端康成、エロい。
2013/08/17
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