パンドラの匣 (新潮文庫)
パンドラの匣 (新潮文庫) / 感想・レビュー
パトラッシュ
自殺未遂や薬物中毒を繰り返した果てに、こんな「懸命に生きる若者」をテーマにした青春小説を書くとは。しかも戦時下の作品なのに血や硝煙や国粋思想の匂いはなく、役者修業や結核療養での苦しさも描きながらラノベ風のユーモアさえ漂う。両作とも初読時は『人間失格』と同じ作者とは思えなかったが、戦争が重くのしかかっていた時代だからこそ永遠に変わらない悩める若者の心理を描きたかったのか。だとすれば太宰は抑圧された社会でこそ安心して希望に満ちた小説を書けたが、検閲がなくなり自由を得た戦後は逆に自分を見失い破滅したのだろうか。
2021/01/18
優希
青春小説と言うのに相応しい作品でした。『正義と微笑』も『パンドラの匣』も希望や軽やかな眩しさが伺えました。澄み切った純粋さがあると思います。特に『パンドラの匣』は結核療養所という陰湿な場所を舞台にしながらも明るさを感じます。ひばりというあだ名の少年が友人に向けて書いた手紙には竹さんとマア坊の恋愛や個人的な人物についてつづられていますが、此方に向けて書かれているような気分になりました。劇的なことはないけれど、どちらの作品も青春にあふれていて面白かったです。
2016/01/07
ゴンゾウ@新潮部
太宰治中期の青春小説。幼少期から多くの挫折に打ちのめされて心中未遂を引き起こすなど破滅的な青春を過ごした太宰が、恋や将来に悩むふたりの青年の姿をユーモラスに時にはシニカルにとても前向きに生々と描いている。人間失格がどうしようもない分この2作品が際立って明るく思えてしまう。 本当の太宰治はどっちなのか。
2015/02/28
ちくわ
『喀血』なるパワーワードから話が始まる。太宰らしからぬ多彩な登場人物、明るい作風、連続TV小説のような展開。一方でやっぱり太宰なので、最後はひばりが死ぬのかな?と読み進める。 読了…まさかこんな話だとは!誰もが善良で最後まで爽やかな純情物語だった。素敵な裏切りだ。個人的には新しい男を自称するひばりが好きだったけどなぁ。 余談だが、自分は本作が読者メーターと重なって見えた。各々が忌憚なく意見を述べる。異なる考え方に触れ、戸惑いながらも認め、共感し、笑う…。作中のひばりのように、通読中自分もずっと楽しかった。
2024/07/24
Willie the Wildcat
『正義と微笑み』は、著者の少年期から青年期の苦悩や葛藤が重なる感。道化ではなく、達成感の齎す心底からの喜び。向き合い、さらけ出し、そして日々精進。努力は裏切らない。転機は、もれなく斎藤師との出会い。”ファウスト”は気合のリベンジ、ですね!批判を恐れず邪推すれば、斎藤師とは井伏氏也。一方、『パンドラの匣』は2つの喪失を背景に、2つの生死の世界に身を委ねる。形ではなく、心底に宿る自身。辿り着く解、「献身」。蔓、道の先に陽。木村氏との約束。元々のタイトルである”雲雀の声”の方が、わかりやすかったかもしれない。
2018/07/31
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