異人たちとの夏 (新潮文庫)
異人たちとの夏 (新潮文庫) / 感想・レビュー
おしゃべりメガネ
思いの外、ステキな作品でした。今から30年以上も前に書かれた作品なので、古さは否めませんが、ステキな話はやはり永遠に色褪せないモノですね。ライターでバツイチ、48歳の主人公は幼い頃、両親と死別し、これまで独りの静かな生活を送っています。そんな彼の元にミステリアスな美女「桂(ケイ)」が表れ、さらに生き別れた両親にそっくりな二人にも出会いが訪れます。半信半疑ながらも彼らとひと夏を過ごしているうちに主人公には異変が。決してホラーではありませんが、ミステリー色も少し加わり、ファンタジーだけで終わらせない作品です。
2020/11/01
buchipanda3
脚本家の山田太一氏による小説。前から題名が心に引っ掛かっていて、特に異人という言葉の響き。外国人の意味もあるが、この場合は得体の知れない存在なのだろう。本作はある男と異人たちとのひと夏の出来事が描かれている。淡々とした語りは余計なものを削ぎ落とした洗練されたもので、それでいて叙情性があり、気が付けば不思議な魅力のある世界観に入り込んでいた。ホラー要素もあるが、それ以上に非現実なものを受け入れたくなる人間味に心を揺さぶられた。夏を終えて男が得たものは何だろうかと考えに耽りながら、物語の残り香の余韻に浸った。
2023/04/27
優希
第一回山本周五郎賞受賞作。面白かったです。日常ファンタジーという感じで、感動とほのかな恐怖に色づいていた作品でした。孤独な日々の中で出会った懐かしい夫婦。心安らぐ夏の日々の愛おしさが心に染み渡ります。それがまさかの展開になっていくのに引き込まれました。いつの間にかあたたかい物語がホラーへと変わっていましたが、それでもひと夏の思い出は心の中で永遠に続く心地よい時間だったと思います。
2016/08/09
匠
ホラーという側面もありながら、その中身は家族愛。亡くなった両親と再会するというせつなさと、昭和へのノスタルジー。父子のキャッチボールには、果たせなかった心の通い合いを感じて、こみ上げるものがあった。そして両親の愛がどれほど深くて大切だったか、捨てたものの重みと、本当の孤独とは何かを問いただしているような気がした。主人公と、1人の女性の孤独の対比は興味深かったが、背筋がゾッとするあの展開は必要だったのかなぁと正直、興醒めしてしまった。それさえなかったら、とてもしんみりできる良い作品だったと思う。
2013/10/10
naoっぴ
なんという切なく美しい話。事務所ばかりのマンションにひとり暮らすライターの男。離婚後の孤独の中で出逢った胸を見せない恋人、亡くなった両親との不思議な邂逅が、現実か非現実かわからぬまま、静かな語り口で描かれていく。亡くなったはずの両親との会話は愛情と安心感に溢れ、涙が出そうなほど満たされた気持ちになった。単なる幽霊話にしたくはない、おとぎ話のような物語。読み終わり本を閉じたとき、指間から文字が砂のようにするすると落ちていき、掌に人が寄せる愛情の有り難さと切なさが残ったような感じがした。
2016/08/30
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