焼跡のイエス/処女懐胎 (新潮文庫 い 3-1)
焼跡のイエス/処女懐胎 (新潮文庫 い 3-1) / 感想・レビュー
がらくたどん
先日現役牧師氏の著書のご感想中に「たちこめる人間臭のただなかに神はいる」という引用を拝見して「焼跡のイエス」みたいと思ったので半世紀ぶりに再読。「焼跡のイエス」「かよい小町」「処女懐胎」では聖書の例えば市場の乱闘とか人の業の寓意としてのライ病者への慰撫とか肉体に宿る命への畏れとかを写し取りながら、力を持たない者達が敗戦後の道標を失った社会で命ある限り生きる姿が描かれ、現実的な日常が急にファンタジーに転調する構成とカラリとした文体が醜く弱い人間の中にキラリと神的な希望を感じさせる。泥の中の倫理が神に見えた?
2023/03/25
メタボン
☆☆☆☆ 最初はとっつきにくかったが、独特なシュールさを持つ世界観に慣れるとともにその魅力にはまってきた。いたずらからガス自殺に至る冬子の死が考えさせられる「マルスの歌」、染香の胸に鮮やかに映る癩の斑点が強い印象を残す「かよい小町」、マリヤのように処女懐胎した貞子に対して求愛する「処女懐胎」、77歳にして淫猥な童女に転生する「喜寿童女」が特に良かった。他、「葦手」「山桜」「張柏端」「焼跡のイエス」「変化雑載」。
2018/03/16
Miyoshi Hirotaka
闇市閉鎖前の最後の一日に起きた奇跡を聖書の世界に翻案。ハエがたかった握り飯にかぶりつくボロを纏った少年がナザレのイエスに重なると思えば、悪鬼が乗り移った豚にも見える。聖書の世界でらい病患者や売春婦に奇跡が起きたように卑賎で俗悪劣等な性根であっても神の御旨にかなえば福音の使者が来る。「梅ちゃん先生」は焼け跡から町医者になる一本道の成功物語だが、実際は地上の悪を凝縮したような生々しい世界だった。戦争開始から数年間にわが国に起きた大変化は歴史何千年分に相当。職業作家として現場を経験した実感が率直に描かれる。
2015/11/30
モリータ
キリスト教的な部分が物語の芯を食っていないので、はなから話に入っていけないということはない。さて、基本的に読みやすいし、文体の使い分けも面白いのだが、それ以上に内容を楽しめるかというと…微妙かもしれない。もう少し読む。
2016/05/11
しゅんしゅん
無頼派、新戯作派と呼ばれる所以について思い巡らせながら読む。やはりある種のユーモアが激しく渦巻いて、それが此処まで言葉を巧みに言い淀みなく引き出しているのだろうなあと感心した。ものすごいアドリブ感、ドライブ感、現在進行形な舵取り感。時代が少し昔なので、思わず辞書を引かないと素通りできない言葉もあるが、古典洋式の強めの表現の中にも、何か新しいものを感じさせるこの感覚は何なのか。キリスト教の主題が契機となり、幻想の場面を引き出し、また波が引くように日常の世界に戻ったりする。この作家のことをもっと知りたくなる。
2021/06/18
感想・レビューをもっと見る