おはん (新潮文庫)
おはん (新潮文庫) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
追い出した元妻と、今は家内として収まっている元妾の間に挟まれる男の狡さや弱さがこれまでもかと展開される。その狡さや優柔不断さやコロコロ、変わる善意は身に覚えがあるからこそ、疎ましくも感じてしまう不思議。ええい、まどろっこしい男だね!個人的におはんの元に密かに通う男を偶然を装ったのか、静かに問いかけるおかよのやり口には共感してしまうのです。危ないわ(笑)そしておはんを腐す、おかよの最後の言葉。そこには冷淡さ以上に、自分を愛してくれる男がいないと自分が成り立たなくなる女の姿を見るようで物悲しさを覚える。
2018/12/03
Willie the Wildcat
”風見鶏”に、ふと魔が差して改心?!時には辛くも、正面から義務と責任を受け止め、他者を愛す覚悟。自己都合で、逃げ続けて溜まったツケの代償。敢えて男を擁護するのであれば、悪気はなく他者に良い恰好をしたいだけの小心者。おかよと、”元”の鞘に収まる?罪を背負うつもりとも思えず、単に流れに身を任せている感。興味深いのが、三者三様のおはん、おかよ、そしてお仙。中でも光るのがお仙の存在感。心底の暗部を暗喩・体現して、独立独歩で生き抜くしたたかさが滲む。執筆10年、著者が描いた未来像の一端か。
2021/08/18
ソーダポップ
古物商人の主人である浮気性の夫が、芸妓のおかよと愛人関係になり、本妻のおはんは、自ら身を引く形で実家に帰った。その後、おはんは夫の子供を産み育てていた。数年後夫はその事実を知り本妻のおはんと寄りを戻し、親子三人で暮らそうとする。つまり夫である主人公の男は、以前はおかよの稼ぎでひものような生活を送り、おはんとの間に自分の子供がいることを知ると、おはんを再び本妻として迎え入れようとする。しかし、その後おかよとも密会を続けている誠に自分勝手な男の物語でした。
2021/08/14
Shoji
別れた元女房、妾、その二人の間を行ったり来たりする男。妾といっても、甲斐性のある男ではない。気弱で冴えないダメ男なのである。いわゆる「ヒモ」男だ。そこにプラスして、元女房との間にできた子、妾の姪っ子の5人のお話です。登場人物の人物描写に惹き込まれました。冴えない男と二人の女、いわば三角関係にも関わらず、どの人物にも共感した。ダメ男には哀愁と切なささえ感じた。不思議だ。これぞ作者の筆力の凄さ、読ませる力だと思った。しかし、いつの世にもいますね。女にだらしがなくてダメ男なのにもてる奴、、、
2022/03/08
シュラフ
たまたま漱石の『それから』と併読してしまったので、この小説のインパクトは小さくなってしまった。だが『それから』の主人公のあまりに観念的な世界と、ある意味で対局にあるようなこの男の現実的な情痴の世界を比べてみると面白い。語り口調が関西弁なのでどことなくユーモア感が漂うが、内容的にはしゃれにならない。どう考えても行き当たりばったりの計画性のない男の行動に、人間のオスという生き物のアホさかげんが我が身のことのように哀しくなってくる。家庭というのがありながら、男というのは他の女につられてフラついてしまうんだね。
2017/01/08
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