黒い雨 (新潮文庫)
黒い雨 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
再読。74年目の8・6の日に。小説は重松、妻のシゲ子、姪の矢須子を中心に、彼らの8・6の日、及びその後の動向と手記を中心に語られる。現在の福山市に生まれ育ち、戦中は東京にいたと思われる井伏が拠り所としたのは、小説中にも描かれる、膨大な数の被爆者たちによる手記の数々である。ピカ、爆風、火災と続く被災の状況が実に生々しく描き出されてゆく。しかも、それは単なる統計には決して現れては来ない、被爆者たちの生の体験である。また、本書が描いたのはそれだけにはとどまらなかった。すなわち、いわゆる原爆症をも視野に入れて⇒
2019/08/06
馨
残酷でした。その一言につきます。しかし、現実なんですよね。悲惨すぎです。
こーた
ポリフォニック。重松は自身の「被爆日記」の完成を目指して、姪の日記、妻の日々の記録、医者の手紙、人々の話などのさまざまな声を聞き、取り込みながら原爆投下という未曾有の体験を描いていく。鯉を育て、お経を覚え、炭を探して廃墟の街を彷徨う。原爆が落ちて終わりではなく、その後も人びとは暮らさなければならない。生活をていねいに描くことで、現実を乗り越えようとする。描写に圧倒される。それでも現実の悲惨さの、千分の一も描けていない、と重松は嘆く。被爆小説であると同時に、ことばの小説でもある。記録することの意味を考える。
2021/08/20
yoshida
いつかは読まねばならないと思っていた作品。日本国政府が外交の末に選択した対米戦争。最初から自国の力だけでは勝算の見込みが無かった戦争は、空襲で都市が焼かれ、国土である沖縄県が奪われ、敗北は自明でも大本営は抗戦を唱えていた。その間に原子爆弾が完成し広島市に投下された。広島市は一瞬で死の街となる。本作では8月5日から8月15日の敗戦までの広島市の様子を淡々と描く。人類は自らの文明をも滅ぼす悪魔の兵器を造り、一般市民も無差別に虐殺した。核兵器は廃絶しなければならない。世界にそう発信し続ける事が我々の使命である。
2016/08/02
小梅
戦後70年の節目に読めて良かった。戦後生まれの私でさえも、原爆投下後の屍体の山、群がる蝿、匂いまで感じるようだった。辛くて読むのに時間がかかりました。75年は草も生えないと言われた原爆。実際には1週間後の終戦の日には草の若芽が生えていたと…
2015/08/11
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