首里の馬 (新潮文庫 た 135-1)
首里の馬 (新潮文庫 た 135-1) / 感想・レビュー
さてさて
『あなたはこの仕事にとっても向いていると思っています』と言われ、『孤独だからですか』と返す主人公の未名子。この作品では、主人公・未名子が『沖縄』の港川の地にある『資料館』で『資料の整理』をし、『記録』としていく一方で、『孤独』という言葉の先に『解答者にクイズを読み、答えさせる』仕事をする日々が描かれていました。一見小説らしからぬ記述の頻出に戸惑いを隠せないこの作品。そんな中に読ませる魅力を感じさせてもくれたこの作品。一筋縄ではいかない芥川賞受賞作の中に、戸惑いを感じながらも新しい世界を見つけた作品でした。
2023/08/26
巨峰
ちょっと理屈っぽいところもあるけど、SFファンタジー系の文芸小説。記録と記憶を丁寧に保存することにより、そこに生きている人や土地の流れが顕になっていく。ヒコーキって名付けられた宮古馬が素敵です。
2024/07/02
NAO
誰も来ない資料館の手伝いをし、限られた人とだけ関わる不思議な仕事についている主人公の家に、台風の夜迷い込んできた宮古馬。宮古馬は、「この茶色の大きな生き物は、そのときいる場所がどんなふうでも、一匹だけで受け止めているような、ずうっとそういう態度だった」と描かれているが、それは、未名子の生き方であり未名子がコンタクトを取っていた3人の生き方でもあった。それは、どういう状況にあっても知への思いは変わらない、ということ。
2024/08/02
エドワード
舞台は沖縄。在野の民俗学者、順さんの資料館の資料整理をボランティアで手伝う未名子。沖縄の複雑な歴史を象徴する、新聞や雑誌の記事、メモ、スケッチ、カセットテープ。一方、未名子の仕事は「孤独な業務従事者への定期的な通信による精神的ケアと知性の共有」だ。それは宇宙、南極、紛争地にいる人々にクイズを出して会話すること。この風変わりだが意義ある作業の間に、沖縄在来種の宮古馬が現れる意外な展開。明るい沖縄の哀しい歴史、孤独な魂のふれあい、クイズの醸し出すユーモア。さすがの芥川賞、不思議な物語世界を楽しませてもらった。
2023/05/12
ろここ
クイズの問読みの仕事と資料館の資料整理を繰り返して暮らす主人公。知識を収集するクイズと、資料を保存し続けることは似ている。人の記憶やデータはそれが存在していた証明となる。役に立つかは分からないところも。物語の舞台の沖縄が一度破壊されてから再生された街であり、再生の鍵が記憶に依られている描写も順さんや未名子の救いになるだろうか。資料を使う必要のないのが一番だけど。最後のクイズ「にくじゃが、まよう、からし」を検索したら沖縄の失われて再生されてまた失われたシンボルが現れた。
2023/04/29
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