愛の渇き (新潮文庫)
愛の渇き (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
主人公悦子の果てしなき愛への飢餓と、ロマネスクで過剰な想像力の自己増殖と、その自己崩壊の物語。同時にそれは、悦子の属する階級の終焉の姿でもあった。すなわち、本編は三島版の『斜陽』であるともいえる。ここでの三島の物語作法の特質は、悦子の行動を作家が分析して読者に開示して見せるところにある。これを「なるほど」と感心するか、わずらわしいと思うかで本編の評価が分かれるだろう。いずれにしても、ひじょうに見事な人間心理の解剖ではあろうが。また、阪急電車宝塚線の岡町駅、米殿が物語の場に選ばれているが、この選択も絶妙だ。
2012/08/18
遥かなる想い
三島由紀夫の物語は、時として卑猥な想定が多く、通勤電車で読みにくい場合があるが、本書もそうである。仕方がないので、ブックカバーで隠しながらこっそりと読んでいた。郊外の隔絶された屋敷に舅と同居する未亡人悦子が 、夜ごと舅の愛撫を受けながらも、園丁の若い男に惹かれるという設定は、エロ本のようであるが、不思議といやらしくなく、そこが小説家の筆力だろうと変な感動をした記憶がある。
2010/06/12
優希
生きる証は愛の証にあるような逆説的幸福に浸るための1冊と言うべきでしょう。夫の急逝により、愛に解放された悦子の堕ちた肉体的愛撫、そして魅了された若い肉体と素朴な心。そこから愛の成就というより嫉妬の喜びというマゾヒズムが透けて見えました。愛に渇いたとき、自らの感情を堕としこむ貪欲さへとなりゆく性のあり方に魅了されました。
2017/05/25
パトラッシュ
田舎の没落貴族の館を舞台に戯曲的に展開する三島由紀夫版『桜の園』か。戦争で三男はシベリアに抑留され、主人は早逝した次男の未亡人悦子を愛人にし、長男夫婦は無為徒食など登場人物すべてが旧時代では考えられない生活を送る。チェーホフでは金に困って領地を売る話が主題だが、こちらは金はあっても半ば農民と化した日常を送るしかない旧家出身の悦子が少しずつ精神に変調をきたす姿を描く。やはり『桜の園』に想を得た太宰治『斜陽』から3年後の作品であり、太宰をライバル視していたとされる三島が『斜陽』を書き直す意気込みが感じられる。
2020/12/18
ゴンゾウ@新潮部
一見、薄幸な女性と思われたヒロイン悦子が年下の素朴な青年三郎とその婚約者美代との関係を知った後大きく物語は展開する。舅弥吉の嫉妬も絡みラストの激しさに圧倒された。
2014/08/20
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