盗賊 (新潮文庫)
盗賊 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
三島由紀夫23歳の処女長編。彼はすでに19歳で短篇集『花ざかりの森』を上梓していたが、この最初の長編小説には初期の三島の作風が色濃く反映されている。すなわち、あらゆる意味において、きわめて観念的な小説なのだ。ここでは、生も、そして死もまた観念の中にしか存在しない。当時の三島には早熟と夭折の天才、ラディゲが強く意識されていたようだが、内容や小説作法は三島に独自のものだ。ただし、こうした登場人物たちの心理のありようを克明に、かつ分析的に描いていくといった手法は、やがては物語りそのもの中に解消していくのだが。
2014/04/18
新地学@児童書病発動中
三島由紀夫の第一長編。お互いの失恋の後にめぐり会った男女が惹かれあいながらも、死を考えるようになる。短いながら硬質の輝きを湛えた小説で、若き三島由紀夫の情熱と意気込みを感じた。文章もプロットも人工的過ぎる気がしたが、それを補って余りあるのは、良い作品を作り上げたいというこの作者の情熱のほとばしりだ。「盗賊」というのは不思議な題で、印象的な最後の場面でこの言葉が効果的に使われている。偽悪的に見えることもある三島由紀夫のモラリストぶりが、よく分かる素晴らしい小説だった。
2016/10/27
かみぶくろ
何を言いたいのかさっぱり分からなかったのは、季節外れの鼻炎のせいで脳に酸素が行き届いてないせいだと信じたい。
2017/07/03
優希
三島初の長編小説で、潮騒と対を成す作品のように思えました。失恋した男女が出会い、互いの胸の内にある幻想を育てていくのが美しい。生と死、エロスとタナトスの共鳴が愛の音楽のように奏でられていくようでした。互いに傷を慰めあっていくことによる完全な愛への昇華。死んでいくはずの彼らが生きることで盗んだ美。衝撃的でありながら大団円という結末に鳥肌が立ち、何処かへと堕落したような意識に陥りました。
2016/07/29
パトラッシュ
三島由紀夫には人工的で拵えすぎな小説が多いが、最愛の相手に裏切られ死を決意した男女が新婚初夜に情死するためだけに結婚する本作は極めつけだ。二人は自死により自分を捨てた相手の美と若さを盗み去るが、これほど烈しい復讐をする彼らの恋愛や失恋が明確に描かれていない。物質的精神的に飢餓状態の戦後すぐに、華やかな時代の貴族界を舞台にした小説を書くなど現実逃避に思える。発表時に反響はなかったのも当然だが、この失敗で三島は自己をさらけ出す方向へ進む。いわば『仮面の告白』に至る踏み台として書かれねばならなかった作品なのだ。
2021/04/07
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