美徳のよろめき (新潮文庫)
美徳のよろめき (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
再読。作品の構造は『禁色』における、悠一と鏑木夫人の関係のあり方とほぼ同様と見てよい。もっとも、悠一はゲイであり、こちらの土屋はヘテロ・セクシュアルではあるが。しかし、ここでも土屋からは徹底して個性が排除されているし(フルネームさえないのだから)、彼は「洗練された28歳の美男」という以上の何者でもない。すなわち、この小説では、節子の心の揺らぎだけが問われており、煎じつめたところは「愛の不毛」が語られているのである。優雅は、かくも不毛なのであり、愛は所詮は虚妄に過ぎないのだ。
2012/06/22
遥かなる想い
ある意味、昼メロ的な作品。三島由紀夫の手にかかると文学作品になる。「よろめき」というのが流行語になったそうだが。「姦通」というのも今では死語では。
2010/06/12
青蓮
生まれも躾も良い優雅な良家のお嬢様である節子が不倫へとのめり込んで行く。彼女の内面を細やかに描いた作品で、男性である三島がここまで女性心理を巧みに綴っているのはさすがである。不倫は何も生み出さず、待ち受けている未来には破滅しかないのに、その恋愛は極限まで純化され、理想化されてしまうのはどうしてだろう。その裏に「背徳」と言う甘美な果実があるからなのか。節子は聡明な女性であるから、不倫の果にある全てのものを知っていた筈なのに。度重なる掻爬が痛ましい。傷つくのは何時だって女性の方なのだ。それに比べ男性は狡い。
2016/07/26
じいじ
最後の1行が圧巻。この小説のすべてが凝縮されていると、思いました。三人の登場人物―ヒロインの不貞の人妻、その夫、不貞の相手独身の青年。どの視点に立つかで、この物語の感じ方も違ってくるでしょう。たった190頁の物語なのに、500頁の長編を読了した充実感と満足感に浸っています。三島の人生哲学、女性観について、途中幾度も立ち止まって考えさせられました。とにかく中身の濃いオトナの恋愛小説です。三島由紀夫の真骨頂の一冊だと思います。
2019/08/20
青乃108号
最後まで読むのに相当の忍耐を要した。途中で投げ出したかった。俺とは別の地平でものを見ているご婦人の、よろめく過程でのこれでもかと執拗に続く深層心理のなんていうか俺には良くわからん描写におののき俺もよろめいた。
2021/08/13
感想・レビューをもっと見る