美しい星 (新潮文庫)
美しい星 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
再読。数ある三島の作品の中でも異色作という点では、これが随一だろう。なにしろ、本作は惑星人たちを主人公にしたSF仕立てなのだから。もっとも、あれだけ様々な小説作法を試みた三島のことを思えば、あるいはむしろ当然であったのかも知れない。物語後半の外惑星人との人間観をめぐっての論争は多分に観念的だが、底流には三島のニヒリズムが強く感じられる。なお、ライト・モチーフの入会権は、法学部の学生時代の三島の研究テーマ。また、自作の歌舞伎『鰯売恋曳網』を登場させるなど、こんなところにも珍しい一面が見られる。
2012/09/30
馨
こんなにも前から三島由紀夫さんが訴えかけていたことに驚きました、知るのが何十年も遅れてしまったことに後悔。宇宙人主演?という設定で訴えてくる手法が珍しい感じがする。第九章が三島由紀夫の声に思えて印象的でした。
2013/04/29
ykmmr (^_^)
『夏子の冒険』についで、「ミシマは…こんな作品も書くのか⁇」と思わせられた作品。いやいや、だってSFなんて想像つかないし、結構、長いけど重苦しくなく面白い。『宇宙人』は本当にいるのか?『地球』や『地球人』の事をどう思っているのか?と思う訳だけど、天才ミシマは双方の悲哀を描き、論戦にてケジメをつける描き方である。終戦を迎え、ふとした時に起こった『朝鮮戦争』から始まった高度経済成長期。ミシマが『存在』の在り方を問(説)いた自衛隊もこの頃に出来た。日本が一番伸びた時代。
2022/08/10
ケイ
随分と前に読んだときは、素直にSF的な感覚を受け入れていたのだが、今回はしっくりこない。どこまでいっても、星新一の終わらないショートショートを読んでいるような心の落ちつかなさ。彼らの目覚めは宗教的なもので、少し離れて見れば集団的幻覚状態であるとしか思えなかった。三島は本当にUFOを信じていたのかもしれないが、少なくともここでは、幻想に歓喜し、救われたと信じる人々の滑稽さや愚かさを描いたように思う。自分が実は宇宙人=選民だと思うことで、上手くいかない周りを見下し理解する努力をやめることはあまりにやさしい
2016/07/09
のっち♬
それぞれ別々の天体から飛来した宇宙人だという意識に目ざめた一家を中心に描かれる世界滅亡への現代的不安。現実社会と向き合いながら唯美主義を追求するスタイルが最も端的に現れた冒険作。とりわけ人間の知的関心が孕んだ罪過・宿痾と美点に対する深重な問答は圧倒的な密度で、核兵器を作り出した人間の存在を根源から問うような凄みがある。一見反現実的・反伝統的な視点がかえって現実を冷静かつ客観的に見つめることに成功している点もSF好きの著者のなせる技。底知れぬ虚無と美的陶酔を行き来しながら今日も人間は何とかやってくのである。
2021/06/18
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