近代能楽集 (新潮文庫)
近代能楽集 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
再読。『邯鄲』をはじめとした、比較的よく知られた謡曲を原典として書かれた8篇の戯曲集。謡曲(能楽)の持つ抽象性と普遍性の発見がその根底にある。オペラの「読み替え」を、もっと徹底させたものとも言えるが、三島の戯曲は、古典的な格調を失わず、それでいて現代的なスタイルを纏うことに成功している。ここでの戯曲はいずれも上演を前提としてはいるが(事実、今も再演されている)舞台はきわめてシンプルであり、演じる役者達の動きも大きくはない。すなわち、「言葉」こそがこれらの戯曲の最大の構成要素であったのである。
2012/08/27
新地学@児童書病発動中
文学者としての三島由紀夫の長所は小説よりも、演劇の中で発揮される。今回この『近代能楽集』を読んで、特にそう感じた。美と猥雑、生と死、男と女、幻想と現実、過去と現在といった対立する要素が、一つに縒り合されて唯一無比の世界が作りだされる。作者が楽しんで書いていることが分かって、その喜びが読者に伝わってくるところが嬉しい。一つ一つの台詞もすべての登場人物も生き生きと躍動しており、読んでいて胸が弾んだ。「卒塔婆小町」が私のベスト。猥雑でグロテスクな現実を突き破って、詩情と切なさが漂う終わり方が素晴らしい。
2016/10/23
優希
能のことはよくわからないので、普通に戯曲として読みました。古典と近代が綺麗に絡み合い、独特の世界観が感じられます。過去を新たに置き換えることで出来上がった作品の数々は、三島の想像力あってこそのものだと思いました。実際に誰かが演じている姿が浮かび上がり、まさに舞台を見ているような感覚に陥ります。
2017/04/29
takaichiro
三島由紀夫の美への拘り、センス、文才が凝縮された作品。原典が能にも関わらず古さを感じない。シュールな8作品はどれも印象的で海外でも上演され好評を博したことも納得。日常生活にはない時間・空間の自由な設定。ストーリー展開のスピードも作品ごとに異なり250ページ足らずの1冊にいくつもの異空間が存在している。フィクションの極みをしっかりと見せられた読後感。読書生活の中でいくつか戯曲集に接したがピンと来た記憶が殆どない私でも、この作品は舞台で見てみたいと思えた。少しお休みしていた三島さんへのアプローチを再開したい。
2020/01/13
Kajitt22
能楽の代表的な作品を現代劇に翻案した戯曲集。自由な時間や空間、幻影や生霊が登場する能の世界が、目前に現れるような読み心地に引き込まれた。能や謡曲に十分な素養はないが、能舞台で演じられるこれらの戯曲をぜひ観たいものだ。数十年ぶりの再読だが、やはりこれは素晴らしい作品だと思う。漱石の『夢十夜』に重なるものを感じた。
2021/05/05
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