青の時代 (新潮文庫)
青の時代 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
再読。この作品も、戦後間もなくに起こった実際の事件をモデルとして書かれており、その限りでは『金閣寺』と同様だ。また、主人公にあっては、現実よりも観念が優位に立つことでも共通項を持っているだろう。ただし『金閣寺』においては「美」がその中核にあったが、ここではそれが「金」であり、虚妄ということになりそうだ。驚くのは、この作品が書かれた時、三島は弱冠25歳であったこと。モデルとなった光倶楽部事件の首謀者、山崎晃嗣とは同年齢であった。
2012/06/12
馨
誠は頭が良く勉強も出来、主義主張もしっかり持ち、大成出来る人だったのでしょう。が幼少期の父と“売り物ではない鉛筆”の衝撃的な経験が大人になった彼の中でもどっか引きずってて、鉛筆に騙され結局鉛筆ピソードから逃れられないお坊っちゃんなんだなと思いました。うまく言えませんが世間のこと、人のことも、わかっている部分も確かにあるけど自分の中で線引きしてしまって、わかっている風を装っている人生にも感じました。それにしても三島由紀夫の文章は兎に角綺麗で、どんなストーリーの作品でも読むと日本語の美しさを感じホッとします。
2014/02/09
遥かなる想い
戦後世間を賑わした「光クラブ」をモデルにした有名な三島の小説。小説自体は読みやすく、毒もなく淡々とした描写。独特な文体から読んでいてなんとなく懐かしい気分にさせるのは、逆に三島由紀夫という非凡な作家の力量なのだろうか?
2010/06/12
かみぶくろ
「光クラブ事件」を題材にした社会派小説‥かと思いきや、モデルとなった山崎晃嗣の個人的心理描写にかなり重きを置いた作品。三島自身失敗作だと言っている本作だが、確かに個人の心理や思想の掘り下げとしては(あくまで三島の他の作品と比べてだが)あっさりし過ぎているし、「戦後青年の虚無」みたいな一般論時代論を描かれているかと言えば、主人公の心理が結構特殊で普遍性を獲得できているとは言い難い。山崎を客観的に見ようとし過ぎて、三島自身楽しくのめり込むように書けなかったんじゃないかと勝手に推量。十分面白いですけどね。
2016/06/21
青蓮
実際に起きた「光クラブ」事件を素材にした作品。事件の方では後に社長は自殺しているみたいだけれど、作品の方は暗示するだけで自殺はしておらず、実際の事件の色合いはそれ程濃くはない。名家に生まれ、エリートとして生きることを約束された誠だったが、詐欺で大金を失ったことで今度は自ら金融会社を立ち上げて詐欺を働く事に。破綻へと向かって行く途中で物語は終わっている。ふと途切れたその余韻の空白が、その後やってくるだろう破滅の影を見事に浮かび上がらせている。誠の屈折した心理が解るだけに何だかとても切ない幕切れのように感じた
2017/05/11
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