豊饒の海 第四巻 天人五衰 (てんにんごすい) (新潮文庫)
豊饒の海 第四巻 天人五衰 (てんにんごすい) (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
『豊饒の海』全4巻の完結であると同時に三島の「白鳥の歌」ともなった作品。昭和45年11月25日「豊饒の海」完と記されているが、その日はまさしく三島が自衛隊の市ヶ谷駐屯地に乗り込み、割腹自殺を遂げた日だ。小説の末尾で本多が月修時の内玄関にたどり着いた時、60年前を回想しつつ「すべては須臾の間だった」と呆然とするシーンがあるが、その日の三島もそんな想いだったのだろうか。小説のエンディングは予想通りであるとはいえ、我々読者をも深く納得させるものだ。本文には出てこないが「色即是空、空即是色」といった観念だろうか。
2013/10/06
遥かなる想い
三島由紀夫が本書を書き終えた後に、自衛隊市ヶ谷駐屯地に向い、割腹自殺を遂げたのは有名な話であるが、私にはなじみの薄い『輪廻転生』を見事に描ききっている。老残の本多繁邦が出会った少年安永透。彼の脇腹には三つの黒子がはっきりと・・そして、物語の最後の聡子の言葉に衝撃を受け、心地よい余韻に浸っていた。
2010/06/12
ナマアタタカイカタタタキキ
清顕、勲、ジン・ジャン、それに続く四人目に当たる透は、それまでの三人とは全く異質な認識者であった。それは異質というより、そもそも彼は──透の明晰かつ偏狭な眼界に移入しやすかったのも、私が凡庸な人間であることの証明であるかもしれない。だからこそその破滅は私にとっても心胆を寒からしめるものだった。何気無しに『春の雪』を開いたあの時に、こんな境地を予見できるわけがない。本多の生涯とは、ただ老いることだったのだろうか。己の死生観すら覆されそうになる程の作品。刺さる箴言も数え切れない。「又、読むぜ。 きっと読む。」
2020/11/19
れみ
お芝居観るための予復習その④76歳となった本多繁邦は、旅行で訪れた清水港で働く少年・安永透と出会い、彼を松枝清顕、飯沼勲、ジン・ジャンの生まれ変わりと見て養子に迎えるが…というお話。透の家庭教師が語った鼠の話が、何気ない世間話のように見せながら後に印象的に蘇ったり、透の誇り高さを打ち砕く慶子の言葉が、ジン・ジャンの名が彼女の口から出た時に、ああこれは長年の友である本多を思っての義憤というよりも、透が、本多が思うような出自であってたまるか、何故なら…という私憤だったのかな…と思ったり、 →
2018/11/29
青蓮
出会った美しい少年・安永透に転生の印を見つけた本多は彼を養子に迎え、教育する。果たして彼は本当に清顕、勲、月光姫の生まれ変わりなのかーー豊饒の海、完走しました。でも上手く物語を消化できません。「衰えることが病であれば、衰えることの根本原因である肉体こそ病だった」誰しも生きている以上、老い衰えることから、肉体からは逃れられない。万物は流転する。生の終焉は何かの救済なのだろうか?忘却が痛みを、悲しみを癒すように。最終巻の結末を読んで本多が歩んできた人生とは何であったのだろう?と考えずにはいられません。
2019/03/15
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