鍵のかかる部屋 (新潮文庫)
鍵のかかる部屋 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
自選短篇集などには入らなかった、ややマイナーな作品の集積。三島の19歳から44歳までと幅は広い。10代で書かれたという「祈りの日記」などは、きわめて古典的で風雅な趣きを持ち、言葉の豊饒さからも、とても10代の作とは思えない。また、巻末に置かれた「蘭陵王」は、三島の最後の短編作品であり、ここには楯の会での横笛奏楽が描かれていて、これもまた典雅で静謐な作品である。そうしてみると、平岡公威は10代から44歳、すなわち自死の直前に至るまで、一貫して三島由紀夫を演じ続けたということなのだろう。これは実に凄いことだ。
2012/10/05
青蓮
少年期から晩年にかけて書かれた短編12編収録。本書を読むと改めて三島の多才ぶりに驚かされます。悪行に取り憑かれた没落貴族を描く「怪物」、赤ん坊を望むレズビアンを描いた「果実」、人を次々騙して世を渡る「江口初女覚書」、エリート官吏の青年が、9歳の少女に欲情を覚える「鍵のかかる部屋」などがお気に入り。特に表題作のラスト「もうおかえりになるんですか。それはいけません」と迫る女中にぞっとする。これから彼がどうなるのか気になる。どれも面白く読みましたがやはり三島作品は短編よりもずっしりとくる長編の方が私は好きかな。
2016/08/09
優希
面白かったです。三島15歳から44歳までの30年間に書かれた作品の中から選りすぐった12編。美と静と淫靡の世界観に体が震えました。美的感覚が凝縮されている作品たちはどれも濃いとしか言えません。だからこそ三島らしさを感じさせるのですね。若い頃から晩年まで、一貫した美学があるのを見たようでした。絢爛多彩な短編集ですが、貫かれているものは昔から変わらないのだと思わされます。
2017/02/24
優希
再読です。三島の15歳から44歳に至るまでの30年間に書かれた短編がおさめられています。美と清と淫靡の世界に体が熱くなる感覚になりました。美的感覚が凝縮された作品の数々はどれも名作と思います。だからこそ三島らしさがあるのですね。若い頃から晩年までの一貫した美学を見たようでした。絢爛多彩な短編集ですが、貫いているものは昔から変わらないのだと感じられます。
2023/11/27
安南
最晩年の短編『蘭陵王』再読。富士の裾野で行われた戦闘訓練の際の一挿話。静謐で清廉。粛として心が洗われるよう。でありながら、不穏な雫を一滴垂らしたような禍事の予感。龍笛の音は泡沫の美を現前させ『松風』の一句を口吟む三島に清経の姿を見、戦慄する。まるで黄泉比良坂に設えられた幽寂閑雅な能舞台のようだ。仮面の告白で幕を開けた作家の物語は、やはり仮面の物語で幕を閉じることに。
2015/11/25
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