仮面の告白 (新潮文庫)
仮面の告白 (新潮文庫) / 感想・レビュー
踊る猫
単にぼくがボンクラだからということなのだが、それでも「いったい何を書きたいのかわからない」とつぶやくしかない。同性愛か異性愛か、肉欲か禁欲か。三島は愛あるいは愛欲という感情に関して「およそ肉の衝動ほど論理的なものはない」(p.62)と吐露せざるをえないくらい困惑せざるをえなかったが、その困惑をそれでもなお統率し彼自身の優秀すぎる頭脳で整理し尽くそうとする。そのような、実に終わることがない、勝つことなんてありえない葛藤の記録としてぼくはこの作品を読む。ありありと伝わる主人公の独りよがりな困惑と葛藤に息を呑む
2024/05/21
NICKNAME
久々の三島作品。彼の告白自伝的作品であり、彼はこの作品で彼らしく若い頃から非常に敏感で、博識で、考えに考え込む青年であったことがわかる。また同性愛的傾向も告白しているのだと思う。三島氏没後妻が彼の同姓愛的傾向を否定しているが、それには非常に無理があると思う。彼の死に対するオブセッションも単に戦時中の影響ではなく元々持つ特殊な何かであったのは明らかで、この時からあのような壮絶な自殺劇を先々演じることも予感させる作品である。三島自身生きるということの喜びというよりも、精神的な苦悩の方が多かったのだろう。
2022/10/01
踊る猫
優秀な頭脳が生み出す明晰な思考が唸る。そこから立ち上がるのは、理論によってついに捕まえられない恋という感情に振り回され、欲望に我を忘れてしまう悲しき人間の姿だ。同性愛的な恋、あるいは異性愛としての愛。両方が(どこかチグハグに)語られて、そうした思い通りにならない感情にコントロールされてしまう男の生態がコミカルとも言える筆致でつづられる。シリアスな作品ではあるのだけれど、同時に彼の真面目すぎる姿がおかしみを誘うという意味では三島が書いた一世一代のコメディとも言えるのかも知れない。実に切実で、そして微笑ましい
2023/05/20
松本直哉
その自伝的要素、少年への同性愛の主題、戦争が暗い影を落とす点など、数年遅れて出た福永武彦『草の花』と似ているが、違いは哲学的・プラトン的な福永に対して審美的・ディオニュソス的な三島と言えようか。特定の少年との魂の合一を希求する福永と違って、本書の私の性的対象は気まぐれに移り、彼らの内面には立ち入らず、ただその美しい肉体を賛美し、それが傷つき血を流すさまを夢見る。聖セバスチャンの殉教の絵と懸垂の少年をダブらせるところは、ルネサンスの絵に描かれた女性と憧れの女性を重ねるプルーストにも似ている。
2023/01/25
わむう
中村文則氏の解説「ある性の形を見事に文学に昇華」にものすごく納得。
2022/11/22
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