午後の曳航 (新潮文庫)
午後の曳航 (新潮文庫) / 感想・レビュー
けぴ
新版なので文字が大きく読みやすい。父を亡くし母と二人暮らしの登は中学生。船乗りの竜二と良い仲になる母。二人の夜の生活を隙間から覗きこむ登。谷崎潤一郎っぽい変態さを感じながら物語は進行。やがて竜二と再婚を決意する母。ある時、夜の生活を登が覗いていることに気付く。母と竜二に叱られる登。罰を与えるとして登と中学生の仲間は竜二を誘い出し、毒入り紅茶を飲ませるところで幕が閉じられる。中編ながら読み応えあるストーリーでした!
2021/05/30
NICKNAME
思ったより短く他の作品群と比べ内容的にも薄く感じられる作品であった。想像していたエンディングと全く違い何だかあっけない終わり方である。ただその締め括りの最後の一文が三島作品で奔馬の最後を彷彿させる。結局強く引き込まれないまま、短い作品であるのに結構ダラダラ読んでしまった。三島にもこういう作品があるというのがある意味新鮮ではある。
2022/03/04
しんすけ
三島由紀夫最晩年の作品と云って良い。 この後に白鳥の歌として『豊饒の海』シリーズを残すが、『午後の曳航』ほどの香ばしさは失せていた。 十三歳の登という少年は主役のようだが、狂言回しにしか観えないことが時折ある。この少年が覗き見る母の姿が艶めかしいからだろう。 本書の初読時、ぼくは十七歳だったはず。その時は登の母の美しさを創造し、その創造に陶酔しながら読んでいた。 そしてぼくの耳もとで、ひばりの「港町十三番地」が聞こえていたような気もする。
2022/04/21
しおり
都会の、早熟した、賢い少年達。危なっかしい組み合わせだと思う。守られていて活力と時間はあるけど責任はない頃だったら大人たちが平穏な日常に収斂していく様に怒りを感じるかもしれない。竜二は船乗りで、陸の生活を疎んでいた。自分専用の人生が、海の生涯があると信じていた。登にとって彼が大人の堕落から離れた存在に見えたのも無理はない。でもやっぱ、歳を取ると角は摩耗して丸くなってしまう。竜二が女性と出会い、急速に陸に染まっていくのは残念だけど強い納得感がある。命に対するシニシズムなくして冷たい心の海は維持できないのかも
2023/05/28
Wataru Hoshii
2023年11月の二期会オペラ(ヘンツェ作曲)を観るので、原作を読んでおかなければと、ざっと読了。文章のリズムだけで夏のいつまでも終わらない気怠さと冬の肌を刺す空気の違いを感じさせる三島の言葉の力は流石。崇高なものが堕落することへの怒りというテーマは三島が常に書き続けたもので、本作もそのヴァリエーションに属する。大人たちが従わせようとする社会が欺瞞、腐敗、汚辱にまみれており、そこに「否」を突きつけ、血による浄化で世界の純粋性を回復しようとする…という結構えぐい話だが、登の苦悩は三島の苦悩でもある。
2023/11/24
感想・レビューをもっと見る