夜明け前 (第2部 下) (新潮文庫)
夜明け前 (第2部 下) (新潮文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
下巻は半蔵にとっては苦難の連続である。長女、お粂の自殺未遂にはじまり、自身の献扇事件から失職、引退、果ては精神を病んで座敷牢で孤独死を迎える。予想もしていなかった結末である。半蔵の奉じていた篤胤の理想、王政復古はならなかったのである。尊王攘夷もまた、いつの間にかかき消えてしまった。西南戦争における西郷たちの思いもまた、うねりの中に飲み込まれていった。第1部では、馬籠の地から幕末の大きな動きを描いていた。この第2部では、逆に新たな世界の大きな胎動を受け止めきれない個の世界が描かれたのである。
2023/11/23
のぶ
下巻は激動の展開だった。明治に入り、新しい政府のもと、半蔵は馬籠での生活を続けるが、それは半蔵が夢見ていたものではなかった。仕事もうまくいかなくなり、飛騨へ行き神社の宮司になるが、ここでも溢れる情熱は報われない。木曽に帰り、隠居したものの退屈な毎日が続く。次第に精神に変調をきたし、遂に座敷牢に監禁されてしまい、そこで半蔵は最期を迎える事になる。時代の変革がもたらした一つの悲劇が幕を閉じた。全四巻、膨大で難しい物語だったが、自分は中学時代に読むのを挫折し、改めて読了する事ができてとても充実した気分です。
2022/05/20
優希
新政府は古の政府とは異なり、報われないことばかりだったようです。国学は腐り始め、蘭学がもてはやされたりと、それまで良しとされていたものが全て否定されていくのを感じました。7年の歳月をかけて書かれた物語ということですが、まさにそれに相応しい作品だと思います。
2019/01/10
NAO
もともと遺伝的な精神疾患がある家系であるうえにあまりにも愚直な半蔵は、激動の時代に指導者的立場で行動するに耐え得る器ではなかった。国学を学ぶことなどなく、本陣の主・村の庄屋の仕事だけに従事するよう育てられていたら、ここまでの悲劇にはならなかったのだろうか。激動のこの時期には、半蔵のように精神を消耗させてしまうインテリたちが、他にもきっといたのだろう。
2020/03/19
aika
『木曽路はすべて山の中である』、この有名な冒頭の一節に、唯一の生活の糧である山を失った木曽路に生きる人々の悲哀が込められているとは思いもしませんでした。特権階級でも、偉人でもない。時代の風を読み、庄屋・本陣の身分でありながら、村の人々の生活の向上のために尽くし抜いた半蔵の最期があまりに無念で、言葉に尽くせません。あれほど待ち焦がれて迎えた明治の世に、国学の理想に破れた彼が人生をなげうってでも守ろうとしたものに思いを馳せた時、読者である自分自身も、身を焼かれるような心苦しい感情に包まれました。
2019/05/29
感想・レビューをもっと見る