真理先生 (新潮文庫)
真理先生 (新潮文庫) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
いい小説だなあ。外の世界は雨ばかりだが、この小説を読み終わった後は心の中に澄みきった青空が広がっていった。馬鹿一、真理先生、白雲など浮世離れした人たちが織りなす温かな人間賛歌。読んでいる間私の中のひねくれた部分は「こんな純粋な人たちがこの世の中にいるはずはないだろう!」と叫んでいたが、いつの間にかその声は消えていた。武者小路実篤はおめでたい作家ではなくて、この世の悲惨を十分に認めたうえで、澄みきった善意の世界を描くと言う困難を引き受けたのだ。その意味でこれは小説の形を取った真摯な祈りだと思う。
2015/06/18
aika
風変わりだけれど、ひたむきに自分の信じた道を行く隠遁生活の真理先生と、芸術の世界に生き、悩みながらもささやかな日々を送る人びとが織り成す世界に浸ると、とても温かい気持ちになりました。欺瞞が渦巻き、人間が人間らしく生きづらいこの世間で、人も自分もとことん信じ抜く真理先生の姿は、清々しいほどに真っ直ぐで、こんなにピュアな生き方ができたら素敵だと思います。いわゆる普通のひとが出てこない現実味を感じにくい世界だからこそ、真理先生や石ころばかり描いている貧しい老絵描きの石かき先生のキラリと光る至言が心に残りました。
2018/12/02
康功
不器用で一つのことに一生懸命努力する石かき先生は、世間に理解されるのに長い長い時間を要したが、その努力が実を結び成果が出てきたときに、誰もが全くできないような偉業を成し遂げる。また、真理先生の講義も深く心に突き刺さる。この二人の生き方が、生きづらい現代の世の中に何某かの大切ヒントをくれていると、思う読後感であった。実篤の持論を展開しているように感じている。
2017/02/17
こばまり
暗さを知った上での明るさ、人間肯定であると亀井勝一郎氏は解説するが、そして時代を思えばその通りでなのあろうが、どうにも落ち着かない。偽善のような、一触即発な人間関係に見えてしまう私は心の荒んだ現代人。
2024/02/03
そうたそ
★★★☆☆ 武者小路実篤の作品群の中でも、取り分け善人ばかりしか登場しないうえに。ストーリー自体も性善説まっしぐらな作品。荒んだ世の中に身を置く者としては、この作品を読む限り、こんな理想的な世界はいったいどこにいけばあるんだろうかとすら思ってしまう。清々しいほどのこの作風には、読んでいるとどことなく何かを教え諭されているような気になる。こういった武者小路実篤の思想・考え方は、後の「新しき村」の建設にも少なからず影響を与えているんだろう。地味な作品だが、武者小路実篤らしさが最も出ている作品かと思う。
2015/07/07
感想・レビューをもっと見る