平凡 (新潮文庫)
平凡 (新潮文庫) / 感想・レビュー
ミカママ
世の中に星の数ほどあると思われる「たら」「れば」をテーマにした小説も、角田さんの手にかかれば手垢感のない、こんなに深い仕上がりになってしまう。タラレバでしか人生を括れない人って、どこかに空虚感があるわけで。角田さんはその辺を『こともなし』の中のサブキャラ紀実ちゃんの言葉を借りてズバッと言ってる。「(将来)どっちがどうだったとか考えなくていいようなところにいたい」これ読んでわたし、胸フルえたわ。これからもついていきます、角田さん。
2019/08/21
さてさて
『もうひとつの人生』をテーマに、人生の色んなシチュエーションにおいて『選ばなかった』もう一つの道を思い浮かべていく6つの短編から構成されたこの作品。普通にありうる『選んだ』、『選ばなかった』の選択の結果が、自分がかつて歩んだ道、そして分岐点に似たものを自然と想起させるこの作品。とても重いテーマを身近なシチュエーションを用いて重くなりすぎないように短編としてふわっとまとめたこの作品。ふと、自分が今までしてきた選択の歴史を、そして結果論で選ばなかった先の人生を思い起こさせてくれた、とても印象深い作品でした。
2021/04/04
エドワード
料理研究家として活躍する同級生と再会する女性の心の裡を描く表題作。彼女は元恋人と同姓同名の男が火事で死んだ後の顛末を探り「呪った。でも、そこまでじゃない。ど平凡な人生を送れって呪ったの。」このセリフが強烈かつ逆説的だ。平凡な人生、は悪口ではない。夫婦と子供、毎日同じ生活、住宅ローンがあっても、結構じゃないか。戦争に行くじゃなし、不治の病に冒されるじゃなし。パラレルワールドとか、私の本当の人生とか、最近よく読むテーマの裏返しのような短編集。人生は別れ道の繰り返し。喧嘩しても別れても、今の人生を生きようよ。
2019/08/08
じいじ
表題作を含む6短篇集。食わず嫌いな角田小説の苦手意識が、幾分か解消される作品だった。個人的には【月が笑う】が好み。結婚6年目に訪れた夫婦の危機。ここ2年は、接吻も性交もなし。でも、一緒にいるだけで安心できる関係(と思っていたのは夫だけか?)。青天の霹靂、妻から突如離婚の申し出が…。夫の心の動揺が、とても巧く描かれていて面白かった。人生を長く続けていると「もし、あの時に…」と気持ちが揺らぐことが多多ある。そんな人生の岐路に立つオンナとオトコたちの切なく虚しい話だが、私は好きです。
2019/11/10
のぶ
もしあの時に別の選択をしていたら、をテーマにした6篇の短編集。どの話も独立していて作品間の関連はない。内容は普通の日常を描いていて特別にドラマチックなものはない。人生の分岐点って誰にでもありますよね。たら、れば、の世界のことで、将棋で言えば「それも一局」ですね。でも選択に迷ったり後悔したことはあると思うが、それがこの短編集には込められている。黒澤明監督の言葉で「人生は一つしかないので、小説を読んだり、映画を観て他人の人生を見るのだ」というのがあり、自分はこうして読書をして実践しているのです。
2019/09/23
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