楼蘭 (新潮文庫)
楼蘭 (新潮文庫) / 感想・レビュー
サンダーバード@永遠の若者協会・怪鳥
西域の都市楼蘭。匈奴の侵略から逃れるために住み慣れたロブ湖畔の城邑から新しい都城に移り、漢の庇護下に。それから数百年を経て、若い武将が祖先の地を奪回しようと計ったが・・・。楼蘭の運命を描く表題作など、歴史短編集。「敦煌」と並んで好きな井上靖さんの作品。一時期シルクロード周辺に興味を持ち関連する作品を読み漁りました。西域に思いを馳せることのできる秀作。★★★★★ 【追記】S.ヘディンの「さまよえる湖」を併せて読むと、当時の情景がより深く味わえる。
エドワード
漢の時代、玉門関の西に楼蘭というオアシス国家があった。匈奴と漢の常なる死闘に巻き込まれて滅び、人々は南に逃れて鄯善という城邑を建てた。それ以来、ロブ湖の畔なる楼蘭は、玄奘すら跡址を見つけられぬ伝説の国となる。20世紀に探検家ヘディンがロブ湖と砂漠の下の謎の国を発見した。井上靖氏は幻の国、楼蘭を想像力豊かに蘇らせ、「敦煌」とともに、日本人にシルクロードへの幻想を巻き起こした。私も中学生の時に読み、正倉院展で夢路を思ったものだ。最近「草原の椅子」でフンザの景色を見ることが出来たが、ここに原点を見る思いである。
2014/01/13
活字の旅遊人
久しぶりに井上靖を読んだ。これは短編集。表題作は昔国語の教科書に載っていた、ロブ湖のほとりにあった楼蘭。小説と歴史教科書との中間のような文章は、なかなか入り込めなかった。が、やはり井上靖。世代を超えて戻ろうとした故地の、変わり果てた姿とその心情がものすごくよく伝わった。中盤の「羅刹女国」は、アラビアンナイトに出てきそうな話だと思った。そして一番面白かったのは、「補陀落渡海記」。「天平の甍」と対をなすような話で、海に向かう金光坊の心情、発想が大変よくわかる名作だ。
2020/12/15
胆石の騒めき
(★★★☆☆)この前に読んだ有栖川有栖の「朱色の研究」で紹介されていた「補陀落渡海記」に興味を引かれ手に取った一冊。読んでいると、中学生ぐらいのころに西域に漠然とした憧れを持っていたことを思い出した。王維の詩(勧君更尽一杯酒 西出陽関無故人)をはじめとして、敦煌、玉門関、夜光杯等の単語が記憶の中から…。実際の過酷さにどこまで思いを馳せていたかは別として。ところで、中国側の記録を元にしているので仕方がないけれど、「匈奴」はまるで襲来するイナゴの様に顔が見えない。その文化や歴史を知らなければと思った。
2018/06/28
aponchan
井上靖氏代表作の楼蘭をはじめとした、短編集。一つ一つの作品が史実と物語を織り交ぜて分かり易く表現されている。人間の性が語られる作品も面白く、重い。特に、楼蘭は、アメリカに頼らざるを得ず、中国にも圧迫される今の日本も彷彿とさせる。機会を見つけて、また、他の作品も読んでみたい。
2020/08/15
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