石涛 (新潮文庫 い 7-35)
石涛 (新潮文庫 い 7-35) / 感想・レビュー
ドラマチックガス
「井上靖最後の短編集」だそうです。私小説風の不思議な表題作と、自らの闘病を綴った「生きる」、残りの3話は中央アジアの紀行文。川への拘りが面白い。一番は「ゴー・オン・ボーイ」かな。あの子は無事家まで帰れたのでしょうか。今なら「見捨てるな」と炎上案件か? 井上靖が辿った道をグーグル・マップで追える幸せ。そして、その後の中央アジア情勢を知ったら、井上靖はどのように思うのでしょうか。
2021/12/09
ライム
著者ほどの大御所が、仕事量をセーブしてまで西域・中央アジアに熱心に出掛ける事に驚いた。それも僻地と思える場所の川を見に。なぜ、川の上流だの合流などに心を砕くのか?この不思議は短編内で綴られる人物達によって、しみじみと分かってくる。人間も川と同じように己が持った運命には抗いようもない、分水嶺の少しの違いで生涯が変わる…だから川から自身の過ごした歴史や分岐点に思いを馳せるのか。それは石濤の絵を見ながら酒を楽しみ死を想う姿と重なり、無力でやるせない気分になる(傑作)
2024/04/21
あべこべらぼう
★★★☆☆軸を預かる老人や中央アジアの川の紀行など、表題作含む晩年の5編。私のここ数年の関心事は水石や山水画である。嗜好と思考を突き詰めると位の高い趣味にたどり着くからである。そのためかこの書物はたいへんに有り難いものとなった。臥遊に興ずるもよし。川を母体とする自然や集落の人との触れ合い、大地のもつ記憶や郷愁を想うもまたよい。隠し立てのない達観した境地を垣間見たようである。
2020/04/12
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