無罪 (新潮文庫 お 6-9)
無罪 (新潮文庫 お 6-9) / 感想・レビュー
Gotoran
欧米で実際にあった未解決事件など13編の裁判物語。裁判の進行とともに明らかになってくる複雑な事件の背景と人間性の不可解な謎。米国裁判史上の汚点という「サッコ・ヴァンゼッテイ事件」、英国の逆転判決で世間を沸かせたという「アデライデ事件」など、英米の著名な陪審員裁判をモチーフに、事件の発生から捜査、起訴、法廷、裁判に至るまでを克明に追究し、人間心理の真相を浮き彫りにしていく。非常に興味深かった。
2023/12/03
Ayumi Katayama
12の裁判記録と1つの文学史ミステリ。8つは有罪とはされずに釈放される。残り3つが死刑、1つが流刑。この中で、妻が夫を毒殺したと疑われたものがいくつかある。例えば『誤判』。夫は50歳、妻は24歳年下。夫は砒素中毒死。妻には若い恋人があり、借金もある。妻は、夫が亡くなる数日前に1ダースものハエ取紙を買っている。ハエ取紙には砒素を含んでいた。妻は有罪判決を受けるのだか、タイムズ紙は「医者が死因について、意見の一致を見なかったことを忘れてはならない」と非難し、国中から50万通を越える懇願状が内務省に殺到する。
2019/08/24
sibafu
欧米で実際にあった未解決事件など13件、被告人が無罪になっていく過程を紹介した一冊。読み始めて小説なのかと思っていたが、実は全てが外国人が書いた本などを基に大岡が編集し直したもの。淡々に捜査や裁判の過程を書いているので退屈さもけっこうあるが、科学的知識がまだ貧しかったり判事ではあっても意地を張ったり思い込みをしたりして、証拠不十分にもかかわらず有罪へと押し進めようとするなど、人間の愚かな心理が明かされていくなど、予想とは違った内容だがなかなかに楽しめた。エンタメ性は低いが、ミステリーに近くはある。
2015/03/02
寛理
裁判実話集。この作品で大岡昇平は一貫して「疑わしきは罰せず」の原則と、陪審員制度を擁護している。それは「専門家」という虚構に対する批判になっている。さらに、真相は藪の中という結論にとどまることなく、特定の人物に対する「信頼」を表明しているところが面白い。「サッコとヴァンゼッティ」では、あやふやな記憶が裁判の過程で確固たるものになっていく事態を指摘する、物語批判がなされる。しかしその相対主義にとどまらないのが大岡の重要性だろう。
2021/02/24
感想・レビューをもっと見る