花のレクイエム (新潮文庫 つ 3-11)
花のレクイエム (新潮文庫 つ 3-11) / 感想・レビュー
やすらぎ
儚さに萎れるもの、切なさに俯くもの、艷やかさにぽとりおちるもの。冬になれば行く場所がある。春になれば集まる場所がある。そこには藍色に包まれた思い出があるから。贈り届けられる澄んだ風に雲に空とともに。12の月の物語。花のレクイエムに心鎮まる。銅版画の挿絵に心打たれる。花が咲く頃を待ちわびていられるなら、時の便りも心地よく、葉を落としても見つめていられる。星のように冬芽はやわらかな光を放っている。一枝や一葉に助けられています。安らかに。綻ぶ頃にまた訪れます。花おちるその前に。愛ある限り永遠を咲かせてください。
2023/12/01
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
美しくてかなしくなるようなものだけをずっと見ていたいの。咲きみだれる木香薔薇に切ない思い出を重ねることがあるかしら、いつか憧れて。梔子がすき。紫陽花の窓辺でほとほと雨をひがな眺めて雨にとらわれた私、感傷嫌いじゃない。目の覚める夕空に風鈴、浴衣をおもう。たのしいことばかり、おもう。やさしいことばかり、世界に溢れるといい。でもかなしい話が胸に残るのはなぜ。夢のなかでは美しい少女素敵な男性にかしずかれて愛を誓うの、引き裂かれるのは運命。夢のなかだけでいい、引き裂かないでこうふく。うずもれたい、いちめんの花々。
2020/05/14
ちゃちゃ
四季折々の花をモチーフとした12話の掌編集。端正な筆致、行間に滲み出る感傷と哀愁。どの掌編も別れと死の匂いを漂わせ、それ故にいっそう花の美しさが匂い立つ。その相反する花のありようから生まれる切なさは、「もののあはれ」とでも言えるだろうか。花々が美しさとともに纏う、いつかは失われてゆくものとしての儚さ。――年上の美しい女性への淡く消えた恋『山茶花』、生涯独身だった叔母の秘められた恋『アネモネ』、不遇な転校生との出会いと別れ『すみれ』。花も人も有限の命であるが故に、喪失の痛みを内包しているからこそ美しい。
2020/05/10
ぶち
読友さん(chantalさん)が読メ登録 1,000 冊目に選んだ本。読まずにはいられません。なんと美しい本なのでしょう。月ごとに与えられた題(花)に、作家が綴った美しい文章は気品があり、それとは独立して画家が描いた美しい版画からは花の香りがします。それぞれが別個に創作された作品でありながら、2つが共鳴して奏でる鎮魂曲。山茶花、アネモネ、すみれ、ライラック、クレマチス、紫陽花、百合、向日葵、まつむし草、萩、猿捕茨、クリスマスローズの12の花。どの花の物語も、静かな情熱を感じ。なぜか溜息がでてしまいます。
2019/08/10
新地学@児童書病発動中
短編小説は詩と散文の結婚だと言われることがある。詩の鮮やかなイメージと、小説の面白さを兼ね備えているということだ。その言葉は、心に響く季節の花の物語が収録された本書によく当てはまる。山本容子氏の美しい挿画の後押しにより、物語で描かれた花の一つ一つのイメージが心の中に刻まれていく。短編だが長編を凝縮した内容を持つ作品が多くて、長い物語を読んだ時のような余韻がある。「向日葵」のような作品は行間に秘められた年月を重みを思い、溜息をつきたくなる。冒頭の「山茶花」が一番好みだった。主人公の流す涙が切ない。
2017/12/15
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