ぼく東綺譚 (新潮文庫)
ぼく東綺譚 (新潮文庫) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
私が熱愛する日本の小説の一つ。なぜそれほど好きなのかはっきりしないのだが、ここに描かれている日本的な情緒の世界に身を浸したくなることがあるのだ。プロット自体は割と単純で、老いた作家と娼婦の出会いと別れを四季の移ろいの中に描いてゆく。いつ読んでも感動するのは、荷風の底辺に生きる人たちへの優しい眼差しと、時代の流れに迎合しないで剛直に生きていこうとする孤高の精神だ。
2015/08/16
優希
叙情的な作品でありながら、社会風刺も織り込んでいるのが面白いと思いました。作家と娼婦の出会いは愛の枯れている街の中で鮮やかな風景として際立ちます。江戸の名残り、2人の交情と別離は東京の風俗が滅びゆく中での愛着と四季の移り変わりの中で見事に活写されているように感じました。センチメンタリズムという言葉を使えば簡単ですが、そんな言葉で言い表せない愛の情緒を見た気がします。社会が重苦しい風潮にさらされている中での批判や風刺が辛辣なのが隠れたユーモアという味を出していると思いました。
2016/08/28
bura
「あら、あなた。大変に濡れちまったわ。」私娼街玉の井を歩く老小説家大江匡に突然の夕立、傘をさす彼の元に駆け込んで来たのが娼婦お雪。それから小説の題材を求め、忍んで通う寺島町の溝際の家でお雪との日々が始まる。戦前、東京下町の風俗が濃密に活き活きと卓越した文体で四季を通じて描かれていく。淡々と二人の関係が綴られて行き、気がつけば私は玉の井の路地に佇み、それを見つめていた。ふわりと消えていく様な小さな交わり。美しい小説であった。「たまには昔の名作を読んでみる」2回目。とても良いことをした気持ちになりました。
2023/08/31
NAO
再読。大江が書く小説『失踪』と彼が通う場末のお茶屋の光景。それぞれが放つ寂しげでけだるい雰囲気。哀愁や倦怠を帯びた男女の情交が、しっとりと描かれていく。そのしめやかな情交にひっそり寄り添うような季節の移り変わり。大江とお雪が出遭うきっかけになった俄か雨。溝近いお茶屋の夏の蚊のうるささ。残暑の頃の虫干し。落ち葉焚き。彼岸過ぎの台風明けの庭の様子。永井荷風の繊細な感性によって切り取られた日本の四季の、なんという美しさ。このどこか懐かしい風景、優しくも物悲しい情交を、一つの作品として残してくれた荷風に、感謝。
2018/04/29
やきいも
昭和12年発表。小説家の主人公と娼婦のお雪さんとの淡い恋物語。昭和初期の東京の風景がみずみずしく描かれている。ベタかもしれないけど読んでて何だかせつなかった。ゆきずりの恋ってせつないよなあ。
2016/12/31
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